2016 Fiscal Year Research-status Report
心身の難問に向かうものとしてのアリストテレス哲学の研究
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26370005
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
渡辺 邦夫 茨城大学, 人文学部, 教授 (30191753)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 『魂について』 / 欲求 / 心身問題 / 表象 / 相対主義批判 / 『ニコマコス倫理学』 / 願望 / 規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
アリストテレス『魂について』などにおける欲求論を解釈し、欲求論におけるアリストテレスの心身関係理解を検討することが本年度の目標であった。おおむね計画通りに研究を進め、「『魂について』における欲求と「知性」」と題して、茨城大学人文社会科学部紀要『人文コミュニケーション学論集』第1号掲載論文を執筆した。2017年9月出版で、掲載は確定している。内容は二つの側面からなる。①『魂について』第3巻第10章(および第11章)でアリストテレスが、第3巻第9章の「動物の行動の原因」をめぐる難問を解決する際、人間の実践知性を中心に据え、規範の生成と実践知性の中心的役割を議論の中で確保したこと。②第3巻第3~9章の心身一元論的な心の枠組みをいっさい崩していないこと、とくに、アリストテレスが表象(ファンタシア)を知性の前段階とみるとともに優秀な願望の前段階をなす認知的要素としても解釈したため、当時の二元論的な立場に対しても、また「あらわれ」をめぐるプロタゴラス的相対主義に対しても、有効な反論を用意できたこと。 同時に、本論文では『魂について』の欲求論を『ニコマコス倫理学』第3巻第4章の願望論および第10巻第5章の快楽論と結びつけて論じた。アリストテレスにおいてはプロタゴラスと違って一部の「善のあらわれ」はそのまま「善」となる(第3巻第4章)。そのような善は共同体の中の「すぐれた人間」にとってのあらわれである。しかし同時にアリストテレスは、そのようなすぐれた人間が「徳」を体現し、「すぐれているかぎりで」規準となることを、第10巻第5章で明言している。 『魂について』の欲求論においても『ニコマコス倫理学』の願望論においてもアリストテレスが、規範を重視しつつも、心の哲学における一元論の利点を守り続けた、と示したことになると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画の基本的部分であるアリストテレス欲求論における心身関係論の特色を描き出すことは、紀要論文において達成できる。『魂について』のほかに『自然学小論集』と『動物の運動について』までを解釈の範囲にする予定であったが、その点は今回の解釈論文に含めることができず、今後の課題となった。しかし、計画にはなかった、アリストテレスの反相対主義の議論を『魂について』と『ニコマコス倫理学』をまたぐ形で解釈できたことは、その点を補うだけの重要な成果であると考える。とくに本論文により、以前の私のプラトン『テアイテトス』研究論文(「『テアイテトス』の「脱線議論」(172C-177C)の意義と内容について」茨城大学人文学部紀要『人文コミュニケーション学科論集』13号(2012年)1-25頁)と合わせ、表象と「あらわれ」に関する、プロタゴラス・後期プラトン・アリストテレスの三者の哲学的関係を総合的に検討する作業が、完結をみることにもなった。欲求と願望にかんするアリストテレスのひとつのパースペクティブを見通すことができたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の欲求論研究に続き、最終年度の平成29年度には、『魂について』における触覚と理論的知性の関係を解明する。この解釈を通じて、従来解明されてこなかったアリストテレス心身論の、認知的側面の研究としてのメリットを、明らかにする。知覚と知性に関する従来の解釈は、第2巻第12章の知覚の説明における「質料ぬきの形相の受容」という文言を解釈する三つの代表的立場に集約されるが、いずれも満足のいくものではないことが分かっている。 この窮状を打破するために私は、理論的知性の問題を「個別的状況における実践の始まり」としても把握することから当の解釈を遂行するので、28年度の欲求論解釈などを活用した、ここまでの本課題研究の集大成となる解釈論文となる見込みである。解釈の対象となるのは、『魂について』第2巻第11章の触覚論、第12章の知覚の総論、第3巻第1・2章の共通感覚論、第3巻第4~8章の知性(ヌース)論である。
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Causes of Carryover |
文房具などに予定していた金額を使用する必要が年度内になかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には「次年度使用額」に相当する額の文房具をも使用する予定である。
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Research Products
(2 results)