2015 Fiscal Year Research-status Report
多元的な近代の宗教性をめぐる総合的研究―宗教概念・宗教的なもの・市民の倫理
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26370023
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鏑木 政彦 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (80336057)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宗教的なもの / 宗教と政治 / 世俗化 / 市民倫理 / 多元的近代 / 宗教概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、いわゆる「世俗化」の展開過程を近代における新たな宗教概念の多元的な構築過程とみなし、その過程を①プロテスタント的な宗教性の多元的な展開、②新たな宗教性からこぼれ落ちる神話的なものやナショナリズムなどの政治イデオロギー的展開、③多元的な宗教性からなる現代社会に生きる市民的倫理という3点から総合的に探究することである。 平成27年度は、政治と宗教性の関係の土台にある基礎となる「想像力」に関する概念史的研究をとりまとめ公刊した。この研究は、古代ギリシアの想像力概念の分析からはじめ、西洋近代において想像力概念が認識論的な能力の点から地位を低下させる一方、政治社会構築のための能力としては地位を向上させるに至ったプロセスを解明し、テロや戦争の危機に怯える現代における想像力の課題が、部族的・氏族的・民族的共同体を越える、市民による政治的共同体をいかに想像できるかという点にあると論じた。 この成果をふまえて本研究の目的を達成するために、市民の政治的共同体を想像しうる文化的な資源としての宗教の近代における多元的なあり方の究明を目指し、ドイツ、アメリカ、日本の宗教思想家の広範なサーベイを行った。具体的には、アメリカのプロテスタント神学者R.ニーバーのニューディール期の政治神学を分析し、その社会倫理性の強さが宗教的資源にいかに大きく依存しているかを究明した。さらに、アメリカのプロテスタンティズムと比較可能なドイツと日本の宗教思想家についても文献調査を実施し、政教分離という枠組みのもとで宗教がいかに政治社会の構築に関わるのか、アメリカ、ドイツ、日本の比較思想史的枠組みの手がかりを得た。また、それらの歴史研究から明らかになる20世紀初頭の宗教思想を、現代に求められる市民的倫理という点から評価するために、R. ベラーの宗教論やR.フォアストの正義論の批判的摂取につとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、当初の計画としては、プロテスタント的近代の宗教の多元性を明らかにする「課題1」から、西洋の宗教概念におさまりきらない宗教概念の変容を、日本における日本学・東洋学に即して解明する「課題2」に徐々に重心を移すとしていた。 「課題1」については、アメリカの神学者R.ニーバーの研究を通じて、アメリカ的宗教性の特質といえる「社会倫理」的な側面の特質を、ドイツ出身のP. ティリッヒやスイスのK. バルトと比較しながら考察した。天皇制という重大な問題を抱えていたとはいえ、近代国家として政教分離に踏み出した日本においても、その近代的な政教体制のもとにおける独自の宗教心が追求された。これまでの研究では、これらはもっぱら日本思想の枠組みの中で探究されてきたが、本研究では近代の政教体制における宗教思想という枠組みで他国の宗教思想との比較が目指される。そのために、近代の政教体制で宗教に要請される二側面、つまりルソーの市民宗教とシュライアーマッハーの内心の宗教の両面をそれぞれ代表したと考えられる大川周明と西田幾多郎を取り上げて、それぞれの一次資料と代表的な先行研究の成果の摂取に努めた。 以上のように、多作の思想家を同時並行的に読み進めることによって、近代の政教分離体制のもとで、20世紀初頭の新たな危機に遭遇した宗教者が、いかに新体制を想像し、その構築に参画しようとしたのか、その比較思想的な枠組みを開拓することができた。 このような歴史的な研究は、現代社会における市民的倫理の構想という「課題3」に密接なつながりを有する。この方面では、倫理・法・政治・道徳の異なる文脈における正義概念の解明に従事しているR.フォアストの文献読解を通じて、理論的な整理を行った。 以上のように当初の研究目的を統合的に推進できる見通しをえられたことが、進捗状況の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、「世俗化」の展開過程を近代における新たな宗教概念の多元的な構築過程とみなし、その過程を①プロテスタント的な宗教性の多元的な展開、②新たな宗教性からこぼれ落ちる神話的なものやナショナリズムなどの政治イデオロギー的展開、③多元的な宗教性からなる現代社会に生きる市民的倫理という3点から究明を目指すものであった。昨年度までの研究を通じて、近代の政教分離体制のもとで、20世紀初頭の新たな危機に遭遇した宗教者が、いかに新体制を想像し、その構築に参画しようとしたのか、その比較思想的考察へと研究が収斂してきた。 ところで、この歴史研究は新体制期、つまりナチズム、ニューディール、昭和維新における宗教思想と政治との関係を究明するものとなる。本研究は仮説的に、この時代の特徴として、世俗的宗教による政治社会のイデオロギー統一と、政治から疎隔した空間における宗教的真理の追求という二つの視点から、宗教と政治との関係を究明したいと考えている。それによって、宗教的文化資源が政治社会にいかに関わったのかを究明するとともに、多元的な現代社会における宗教の意義を究明するために、R.フォアストの正義論を手がかりに理論的な探究にも取り組みたい。 以上のように、申請段階に3つに分けられていた研究課題を一つに統合して、今後の研究の推進に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
本研究で特に予算上の支出が必要なのは、ドイツ、アメリカ、日本の宗教思想・政治思想に関する研究書であり、昨年度も主として、書籍の購入に予算を充当した。研究書は数千円以上するものが大半であり、必要性の高くない小さな書籍を購入するよりも、高額だが必要性の高い図書を購入する方が、予算の効果的な使用となるため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究を推進するためには、ドイツ、アメリカ、日本にかかわる多数の研究書が必要となる。そのため、次年度使用額は、それらの研究書の購入に当てる計画である。
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Research Products
(1 results)