2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370034
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
守中 高明 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80339655)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脱構築 / 散種 / ファロス中心主義 / 死のエコノミー / 不気味なもの / クリプト(地下墓所) |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究目的:(1)前年度(平成26年度)の研究成果であるフロイトの精神分析理論における「通道」「痕跡」等の概念が、デリダにおける「差延」「原‐痕跡」等の概念形成に与えた影響の検証を前提として、また、ラカンの理論体系の核心部に位置するすべての欲望の起源にして宛先である「特権的シニフィアン」たる「ファロス」の機能がその効果を失う場面をめぐるデリダのエクリチュール実践の検証を前提として、デリダにおける「脱構築」の戦略が、従来の精神分析学の認識の領野をどのように拡大し刷新したかを、具体的な問題系にそって分析・検証すること。 2.研究方法:デリダ的精神分析が、いかに精神分析学の諸概念を問題化しているかを論述する。(1)デリダ的精神分析が、科学としての精神分析学の認識論的枠組みを超えて、「生/死」の分割以前の前‐起源的な「死のエコノミー」の領野を露出させる諸場面を整理する。(2)ラカンにおける「ファロス」の機能がデリダの戦略によって宙吊りにされたときに現れる言語の運動、すなわち「シニフィアン」の循環的連鎖が切断され「シニフィアン/シニフィエ」の統一体が解体され、「固有名」の固有性が剥奪されて普通名詞との境界線が攪乱され、さらに文字素群(grammes)へと解体される、「散種」とデリダが名づける言語の散逸的運動を分析する。 3.研究成果:主に上記の(1)(2)を主題とする論文を執筆し、その成果は以下の「研究発表」欄に記載のとおり学術研究誌に掲載された。この2本の論文は岩波書店より刊行予定の『ジャック・デリダと精神分析』の一部を成す(この著書の執筆は現在も進行中であり、全4部構成のうち第3部第1章までが脱稿している)。その他、後期デリダの最も重要な問題系の一つである「赦し」をめぐる著書『赦すこと――赦し得ぬものと時効にかかり得ぬもの』を翻訳し、詳細な解説論文を付して出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に明記した著書『ジャック・デリダと精神分析』(岩波書店、2017年春刊行予定)の全Ⅳ部8章のうち、第Ⅰ部を構成する2つの論文(「研究実績の概要」に記載)をすでに学術研究誌『思想』(岩波書店)に掲載し、かつ、現在までに第Ⅲ部第1章までを執筆し終えることができた(残りは、計3章)。 また、デリダの後期のセミネールに由来する『赦すこと――赦し得ぬものと時効にかかり得ぬもの』を翻訳し、詳細な解説論文「不‐可能なることの切迫――来たるべき赦しの倫理学のために」を付して出版することができた。「赦し」は、デリダの政治学‐倫理学的転回以後の最重要の問題系の一つであり、日本ではいまだ充分に紹介・研究されていないこの問題系への導入的役割を果たすことができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」欄に記したとおり、著書『ジャック・デリダと精神分析』(岩波書店、2017年春刊行予定)を構成する残りの部分=第Ⅲ部第2章、第Ⅳ部第1章・第2章の執筆を、遅くとも今年の秋までに終え、註や引用文の点検などの細かな作業を注意深く行った後、予定に遅れることなく刊行することが最優先事項である。 その際、平成27年度・28年度の研究の中心であるデリダの大著『弔鐘』の読解が大きな課題であり、その成果を上記の著書の第Ⅲ部第2章に適切な分量にまとめることが当面の作業の中心となる。
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Causes of Carryover |
論文の執筆に際して、使用する参考図書が事前に予想したほど多くなかったこと、および次年度の直接経費を申請時にきわめて少なく見積もったため、今年度の使用額を抑制したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「研究実績の概要」欄に記載したとおり、著書『ジャック・デリダと精神分析』の残りの各章を執筆する際に必要となる書籍等の参考資料の購入に充てる。
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