2014 Fiscal Year Research-status Report
プライバシーと自己決定権の限界:情報倫理学的知見と歴史的事例からの考察
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26370040
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
大谷 卓史 吉備国際大学, アニメーション文化学部, 准教授 (50389003)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プライバシー / ディジタルパーソン概念 / フィールド実験における社会的信頼の重要性 / 倫理綱領と社会的信頼 / ネットワークロボットの倫理問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度においては、インターネット上の仮想人格にかかわるアイデンティティとプライバシーの問題、ビッグデータとプライバシー、通信の秘密とプライバシーの問題について、前年度までの科研費基盤(C)の研究のなかで追究してきた倫理学および社会学の成果に基づくプライバシー概念の整理と理解を推進した。 インターネット上の仮想人格に関しては、1970年代からの倫理学や社会学などの分野における"digital person"概念の変遷を検討し整理した。この整理に当たっては、Goffman社会学で展開された役柄(role)概念を適用した。 ビッグデータとプライバシーに関しては、2つ成果がある。第一に、フィールド実験における個人の容貌の撮影とデータベース化の問題を取り上げ、問題を整理するとともに、フィールド実験や技術の社会実装においては技術者・研究者への信頼がプライバシー・監視に関わる問題を緩和する可能性を検討した。学会・技術者団体等の倫理綱領が技術者・研究者に対する社会的信頼を得るには非常に重要であることを示した。第二に、ネットワークロボットの倫理問題に関して、ネットワークロボットはビッグデータの収集・分析システムのユーザーインタフェースとして機能している点を指摘し、現在のサーチエンジンで見られる倫理的問題と共通の課題が多いだろうことを指摘した。今後ビッグデータ応用を目指すネットワークロボットに関しては、サーチエンジンの倫理問題とその対応を参照しながら研究開発を進めていくべきである。 通信の秘密に関しては、総務省が民間企業、NPO等と協働してマルウェア感染PCのIPアドレスの発見と利用者の特定、利用者への注意喚起などの活動の検討を行った。 上記と並行し、プライバシーと自律にかかわる倫理学的研究と、歴史的事例の収集を進めている。 当該年度は、情報倫理学研究会を2回開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
情報倫理学研究会の開催を本年度4回計画していたが、今年度は2回のみとなった。しかし、うち1回は、東京大学大学院 情報理工学系研究科中川裕志教授を招聘し、ビッグデータとプライバシーに関する工学的課題とその解決方策についてご講演をいただき、工学におけるプライバシー・個人保護技術研究に関する最先端の知見について共同研究者とともに理解を進めることができた。 上記の研究実績の概要で示したように、現代における情報通信技術とプライバシーに関する倫理的問題に関わる事例とその整理を推進する点においては、ほぼ計画通りといえるものの、自律・自己決定にかかわる問題に関しては、まだ事例の収集・整理が充分とは言えない。また、通信傍受・通信の秘密にかかわるプライバシー、および教育分野におけるビッグデータ分析について、事例や倫理的問題の抽出を開始したところであるが、充分な整理を行って学会発表等を行うところまではいっていない。 上記の理由から、研究はやや遅れながらも推進されている状況と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においては、研究計画書に示した課題の推進に加え、前年度の研究によって必要が明らかとなった研究課題に取り組む。 まず、研究計画書において示したように、次の4つの課題に取り組む。①匿名秘密投票制度の成立とその意義に関して、個人の自律・プライバシーに関するどのような思想が背景とあったのか、歴史的事例から考察する。②国勢調査制度の導入がどのように行われ、プライバシー思想とどのように衝突してきたか国内外の例を見る。③ヘルメットおよびシートベルトの義務化は他者危害原則に反する例としてとりあげられることが多いが、これがどのような経緯で導入されたか検討する。④健康増進法の成立とその批判を見ることで、やはり社会的利益と自律の価値との相克が見える。以上の検討を通して、ICTにおけるプライバシーや自律・自己決定権にかかわる問題を考察する。 さらに、プライバシーと自律の関係に関しては必然的な結びつきがあるわけではないという批判が倫理学・法哲学分野にはある。この批判の検討を通じて、プライバシーと自律、社会的利益の比較衡量問題を考察することも行う。 プライバシーや個人情報の概念、個人情報に対する不正行為とプライバシー侵害の危害・迷惑に関しても、J. Feinbergの他者危害・他者迷惑等に関する法哲学的考察の検討やJ. D. Vellemanの自己概念の哲学的考察などを通じて、より解明を進めていく。 平成28年度において、前年度および平成27年度の研究を総合して、プライバシーと自律、社会的利益の比較衡量に関して見通しを得られるよう、歴史学的事例の収集と分析、倫理学的考察を引き続き進めていく。
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Causes of Carryover |
宿泊予約の書類により予算差引きシステムに入力後、領収書提出により二重に入力してしまいました。本学の予算執行期限を経過した後に判明したため次年度に繰り越しました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に従って研究を推進し、速やかに使用いたします。
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Research Products
(5 results)