2015 Fiscal Year Research-status Report
六朝隋唐道教における上清派の特質とその思想文化史的意義に関する研究
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26370043
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
神塚 淑子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (20126030)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 六朝隋唐道教 / 上清派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、六朝隋唐時代の道教の中で特異な位置を占める上清派の思想とその系譜を、文献資料と文物資料の両面から綿密に検討するとともに、上清派の存在が中国思想文化史上において担った意義について、思想面のみならず、文学・芸術等の諸方面をも含めた広い視点から総合的に考察することを目的としている。 研究の2年目に当たる本年度は、昨年度からの継続として、陸修静が「上清」をどのように認識しているかを検討し、「六朝道教と『荘子』」と題する論文にまとめた。陸修静は「三洞」という枠組みを立てて道教の諸流派を統合し、当時、中国社会に深く浸透してきていた仏教に対抗しうる道教を樹立しようと試みた。陸修静の道教は、実質的には霊宝経の教理と霊宝斎の儀礼を中心に据えているのであるが、その一方で、上清経の収集にも熱意を持ち、「三洞」の枠組みにおいて洞真上清を上位に置いた。また、『洞玄霊宝五感文』に見られるように、斎の分類においても、陸修静は霊宝斎とは性格の異なる斎として「洞真上清の斎」を別に立て、「洞玄霊宝の斎」よりも前に置いた。陸修静のこのような上清重視の姿勢は、東晋中期以降の道教史の展開と深く関わっており、陸修静の事跡と著述の中でしばしば登場する『荘子』の思想が、この問題を考える上での一つの視点になり得ると思われる。論文では、『荘子』の「真人」の観念や「心斎」「坐忘」の思想が、上清派道教と霊宝経においてどのように取り入れられているかを確認し、それらが陸修静の道教にどのようにつながっていったのかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、六朝隋唐道教における上清派の思想とその系譜を綿密に検討し、上清派の存在が中国思想文化史上において担った意義について、幅広い視点から総合的に考察することを目的としている。 研究の2年目に当たる本年度は、上欄に記したように、「三洞」という枠組みを立てて道教の諸流派を統合し、隋唐道教の基礎を築いた陸修静が「上清」をどのように捉えていたのか、また、それは東晋中期以降の六朝道教史の展開とどのようにかかわっていたのかを、『荘子』の思想との関連という視点から考察して、論文にまとめた。上清派の提示した宗教的世界観の中で最上に位置する「真人」の世界という発想や、「真人」に至る方法論として説かれた「心」のあり方を重視する修養論は、いずれも中国古典の『荘子』の思想に由来する部分が大きい。『荘子』の「心斎」「坐忘」の思想は、仏教の心の修養論に匹敵しうるものとして注目され、「洞真上清の斎」は、陸修静以降、斎の枠組みの中で特別の位置づけを与えられることになった。『荘子』がどのように取り入れられていったかに着目して六朝道教を考察することによって、唐代において、『真誥』や内伝類に見えるような上清派道教独特の文学的表現と幻想的世界観が李白・顔真卿ら文人層に受け容れられ、また、『坐忘論』のような道教の心の修養論が出てくることになる源が、これまでよりも明らかになったと思われる。 以上により、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、第一に、則天武后期から9世紀初頭に至る時期における上清派の系譜作成の動きについて、綿密な検討を行う。先行研究により、陶弘景→王遠知→潘師正→司馬承禎という道系が最も早く見えるのは、陳子昂の「続唐故中岳体玄先生潘尊師碑頌」であり、その作成には司馬承禎自身が深く関わっていたことが指摘されている。この道系は、その後、衛憑・李白・顔真卿らの文などにも見え、貞元21(805)年に書かれた李渤の「真系」(『雲笈七籖』巻5)へとつながっていくのであるが、この道系を考える場合、睿宗・則天武后・玄宗の三代にわたり朝廷の厚い信任を受けた司馬承禎という人物に対する、同時代および後世における評価という問題が深く関連してくる。近年、刊行された呉受琚輯釈『司馬承禎集』(社会科学文献出版社、2013年)所収「司馬承禎事迹輯略」などをも参考にしつつ、司馬承禎の事跡と後世の評価を詳細に再検討する。同時に、司馬承禎の主著とされる『坐忘論』をめぐる諸問題(石刻「坐忘論」の問題も含めて)についても、あらためて検討を行う。 第二に、三年間にわたる本研究の成果をまとめ、上清派の存在が中国思想文化史上において担った意義について、一応の総括を行い、報告書をあらわす。
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Causes of Carryover |
次年度使用額はわずかであり、ほぼ当初の予算額を使用したと言える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の人件費・謝金等に使用する予定である。
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