2014 Fiscal Year Research-status Report
懐徳堂学派における儒教の展開に関する研究―朱子学・陽明学の折衷から融和へ―
Project/Area Number |
26370049
|
Research Institution | Anan National College of Technology |
Principal Investigator |
藤居 岳人 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科(旧一般), 教授 (80228949)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 懐徳堂 / 実学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸時代の大坂に存した学問所・懐徳堂の儒者の思想が朱子学と陽明学との折衷から両者の融和へと止揚されてゆく様相を分析する。そして、この両者が止揚されたところに懐徳堂独自の儒教が成立し、幕末に続く「実学」―現実の政治実践に資する学問―の系譜の展開に重要な役割を果たしたことを明らかする。それによって、日本近世儒教思想史上における懐徳堂学派の思想史的位置づけを再構築することが本研究の研究目的である。 本研究の研究目的を達成するために、第一に、中井履軒の経学研究における陽明学の影響を分析すること。第二に、中井竹山の漢詩文を題材とした懐徳堂の「実学」の展開の様相を分析すること。第三に、中井竹山と播州龍野藩の儒者との交流の様相を分析すること、の三点について並行的に分析を進めた。 本年度は、第二の、中井竹山の漢詩文『奠陰集』を題材とした懐徳堂の「実学」の展開の様相を主に検討した。ただ、その分析の過程で、『竹山先生国字牘』中の書簡の読解から、竹山が「修己」を基底にしつつ「治人」に携わるという儒者本来のあり方を回復しようとしていることがわかり、その点を検討しはじめた。その結果、このような「治人」に対する意識、言いかえれば社会全体に対する責任感をもとにして、実際の政治実践に役立たせることのできる学問が竹山の考える「実学」であることが明らかになった。 さらに、この竹山による「実学」の立場が、幕末に至る日本近世思想史上において展開してゆく様相について、『奠陰集』『草茅危言』を中心に検討を進めており、現在、その内容を整理しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究目的を達成するために、①中井履軒の経学研究における陽明学の影響を分析すること。②中井竹山の漢詩文を題材とした懐徳堂の「実学」の展開の様相を分析すること。③中井竹山と播州龍野藩の儒者との交流の様相を分析すること、の三点の分析を進めた。 ①については、ほぼ順調に中井履軒の著述の読解を進めて、朱子学に対する彼の経学研究の基本的立場をある程度明らかにすることができた。彼の経学研究における陽明学の影響を分析するための基礎作業、すなわち、『逢原』と『雕題』との比較対照は現在も調査途上であり、次年度も継続的に分析を進めたうえで論考等にまとめる予定である。②については、『竹山先生国字牘』を題材に中井竹山の思想からうかがえる懐徳堂の「実学」思想の様相を明らかにして、論考等にまとめることができた。現在は『奠陰集』の読解を継続的に進めている。③については、現在、『竹山先生国字牘』に見える藤江貞蔵や国枝子謙など龍野藩士に向けた書簡等の読解を進めている。 上述の研究を進めるための基礎資料の文献調査も継続中である。懐徳堂学派の儒者に関する一次資料の多くは大阪大学附属図書館懐徳堂文庫に所蔵される。それ以外にも懐徳堂関係の資料は、大阪府立中之島図書館、国会図書館東京本館、たつの市立龍野歴史文化資料館等において所蔵される。今年度は国会図書館東京本館、たつの市立龍野歴史文化資料館の文献調査は実施できていないが、その他の大阪大学附属図書館、大阪府立中之島図書館等の実見調査は実施できた。 以上のことから研究計画はほぼ順調に進んでいると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、①中井履軒の経学研究における陽明学の影響の分析、②中井竹山の漢詩文を題材とした懐徳堂における「実学」の展開の様相の分析、③中井竹山と播州龍野藩の儒者とに交わされた交流の様相の分析、の三点を中心に懐徳堂学派における儒教思想の展開の分析をめざしており、全般的にほぼ順調に進んでいる。 ①については、引き続き中井履軒の経学研究における陽明学の影響を分析するための基礎作業、すなわち、『逢原』と『雕題』との比較対照を進めて、次年度以降の研究計画を推進してゆく。今後は、当初の計画通りに、②懐徳堂における「実学」の展開の様相の分析、③中井竹山と播州龍野藩の儒者とに交わされた交流の様相の分析を中心に研究を進める。 ②については、懐徳堂、特に第四代学主として精力的に活躍した竹山が、懐徳堂を拠点とした儒者ネットワークを通して、彼の考える「実学」を展開してゆく様相を分析する。具体的には、『奠陰集』に見える漢詩文の読解を進める。『奠陰集』の漢詩文は、竹山と交流のある混沌社社中の儒者とのやりとりが中心であり、その儒者の多くが寛政改革において主導的役割を果たした近世後期朱子学派の儒者だった。今後、彼ら近世後期朱子学派の儒者を中心とした儒者ネットワークの広がりの様相を明らかにする作業を進める。 ③については、『竹山先生国字牘』所収の龍野藩士への書簡資料の読解を進めてゆく。それと並行して、龍野歴史文化資料館所蔵の旧小西家所蔵本の調査を進める。その調査から竹山と龍野藩士との交流の様相がうかがえる資料を抽出したうえで内容を分析し、②とも関連させつつ、重層的に竹山の経世思想を明らかにする。
|
Research Products
(3 results)