2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370053
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大島 智靖 東京大学, 人文社会系研究科, 特任研究員 (60626878)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | インド哲学 / ヴェーダ / 祭式 / 儀礼 / 現代インド / 婆羅門(バラモン) / ソーマ祭 / プネー |
Outline of Annual Research Achievements |
〔平成26年度の実施内容〕 (1)古代インドの儀礼とその意義を伝えるブラーフマナ文献の解読を通じて、潔斎儀礼のシステムの再構築とそこに見られる死生観の分析を進めた。初年度は、従来の研究成果を整理しつつ、ソーマ祭の中に見られる2タイプの潔斎を取り扱った。ブラーフマナ文献に基づき、両者の関係とその意義をソーマ祭全体における解釈学の文脈の中で考察した。(2)2月下旬にマハーラーシュトラ州の学際都市プネーに出張し、滞在中に現地に住む婆羅門であるスダカル・クルカルニ師とコンタクトを取り、インタビューを実施した。また、日昇日没時に日々執行する、アグニホートラすなわちヴェーダの簡素な日常的拝火儀礼を観察した。
〔成果の意義〕 (1)一回のソーマ祭で2度の潔斎が実施されるその意義について、人間であることと(死んで)神々の一員となるという概念を分析し、ひとつの仮説を提示した(『印度学仏教学研究』63-1、pp.262-267)。(2)インタビューにより、クルカルニ師の3代の家系と略歴、家族を含めた現在の状況についての概略を知ることができた。インドで最も発展した学際都市として知られるプネーにおいて、伝統的婆羅門の生活実態が如何なるものかを把握することができた。また、現段階では詳細は明らかにされていないが、10月にヴァージャペーヤと呼ばれる大規模ソーマ祭の催行を師が予定しているという情報を本人より得た。これが実現すれば、大変貴重な儀礼の記録を収め得る機会となり今回の渡航が次年度に活かされたことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献研究の面では、潔斎のおける死生観の研究を進展させるとともに、ソーマ祭の複合形態である王権儀礼について、潔斎儀礼をひとつの視点として分析を進めた。その成果の一部を各々第65回印度学仏教学会(8/31)と第4回ヴェーダ文献研究会(3/22)で発表した。 フィールド調査の面では、当初の目的通りプネーに赴き、婆羅門であるクルカルニ師に面会とインタビューを実施することができた。また、その過程で2015年中に催行される予定の大規模儀礼の情報を得た。こういったものに出会えるかどうかは全くの運なので、今回は大変な幸運に恵まれたと言える。これにより、平成27年度の渡航及び調査の目途が立った。その大規模儀礼は、ヴァージャペーヤと呼ばれるソーマ祭の派生形で、先に言及した王権儀礼と関連するものである。結果的に文献研究とフィールド調査研究が相互リンクすることになり、この点に関しては研究の核心的な目標に対して予想以上の進展を得ることができたと考えられる。しかしながら、もうひとつの課題として設定した動物犠牲祭と死生観に関しては十分な研究・分析を進める余裕がなかった。平成27年度は、この部分にさらに重点を置いて取り扱うつもりなので、遅れは十分に取り戻せると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
古代インドのヴェーダ文献によるインド思想の基盤的研究と、フィールド調査による現代インドの実態という2本柱により、古代インド伝統宗教の変容と継続の様相を探るという研究の骨格は今後も変わらない。前者については特にブラーフマナ文献のソーマ祭に関する記述部分について解読を進めることである。 後者について最も懸念されるのは、プネーにおける現地調査をどれほど進展させることができるかという点である。今回、ヴァージャペーヤと呼ばれる大規模儀礼の開催について情報を得られたが、インドという国の実情を考慮すると実際に儀礼が実施され取材記録ができる可能性は絶対確実ではない。連絡役となっている人物との密なやり取りが不可欠である。次年度、次々年度における現地の動向を常に把握するよう努め、情報を得ておく必要がある。万一、上記の開催が延期あるいは中止された場合、大規模儀礼と同等以上に重要なアグニホートラや新満月祭といった日常献供儀礼の実態を記録することに代え、次々年度の開催に期待することで以て対応できると考える。
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Causes of Carryover |
今年度必要なものはもうなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求せず、返還する。
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Research Products
(3 results)