2015 Fiscal Year Research-status Report
セルフポートレートと演劇性:クロード・カーンと前衛劇の交差
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26370097
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
長野 順子 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (20172546)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス前衛劇 / 仮面劇 / 人形劇 / 舞踊とエキゾティスム / 演劇の再演劇化 / 文化の編み合わせ / カーニヴァル空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
シュルレアリストの女性写真家・作家として近年注目されているクロード・カーンの領域横断的な活動を「演劇性」及び「カーニヴァル空間」という観点から捉え直すため、以下のような調査・研究を進めた。 (1)パリで前衛芸術運動が高まった1920年代に、カーンとパートナーのムーアが関わった前衛劇の内容について調査を進めるとともに、東洋の伝統舞踊・演劇の前衛芸術への影響、とくに日本の様式化された舞踊・演劇による双方向的な文化の編み合わせについて研究・調査した。 (2)カーンの多数のセルフポートレートと文筆活動における重要な要素としての「仮面」と「人形」について、とくにフランスを中心とするヨーロッパ諸国及び東洋の国々におけるそれらの多様な役割と「人形」劇の歴史的展開に関する実地/資料調査を、リヨンを初め複数の人形博物館にて行った。 (3)2015年7~10月までカーンの生地ナント市のメディアテークで開催された展覧会“Claude Cahun: Photographies, Dessins, Ecrits”を訪れ、同時開催された講演会にも参加した。またこの施設が所有するカーンと叔父のマルセル・シュオッブに関する新しい資料に触れる機会も得た。 (4)ナント市を訪問した際に、ナント大学のメディア・アート専門のパトリス・アラン准教授とシュルレアリスムとカーンとの関わりに関する研究及び日本でのシュルレアリスム研究について情報交換を行う機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は平成27年4月に神戸大学から大阪芸術大学に所属先を移転したため本研究課題遂行に関わる移管手続きに時間がかかり、研究の進展及び資料調査等の作業に若干の遅れが生じた。 しかしながら27年10月末まで開催のナント市立図書館(メディアテーク)でのカーン展には間に合い、貴重な資料に触れるとともに多くの情報を得ることができた。 とくに、ナント大学のアラン准教授と再会して、ナント市立美術館の改修・拡張工事の大幅の遅れと、そのために美術館の改修完成を待たずにやや小規模のカーン展を行った事情についても説明を受け、市民の間でのカーンへの関心がさらに高まっていることを改めて確認できた。 また国内外のシュルレアリスム研究者や前衛舞踊関係の専門家とも研究交流を行うことを通して、カーンのジャンルを超えた活動を歴史的・社会的コンテクストの中で捉えなおす重要性を再認識することができたことは大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き1920年代から30年代にかけてのカーンの多面的な活動について具体的に見直し、そこに通底する「仮面」「人形」という要素の意味について考察する。 とくに、彼女の主著ともいえる『無効の告白』(1930)に挿入された複数のフォトモンタージュ作品について分析を進め、この書物におけるテクストとイメージとの相互関係の特異なあり方を浮き彫りにしていく。 そこから彼女のジャンルを越えた活動全体を「演劇性」及び「カーニヴァル空間」という観点からまとめる作業を行い、その成果を学会や研究会、研究雑誌等で発表する。 また、昨年ナント市で行われた小規模なカーン展を、日本のいくつかの機関で(ナントの姉妹都市である新潟市の他に東京近郊、関西地区を候補地として)2017年以降に開催することを目標に、ナント大学アラン准教授の助力を得ながらナント市立図書館(メディアテーク)と交渉を行っていく予定である。
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