2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370099
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
丹羽 幸江 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 客員研究員 (60466969)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 祝詞 / 古楽譜 / 吉田神道 / 大祓 / 猿楽伝授 / 記譜法 |
Outline of Annual Research Achievements |
神道の祝詞は、祈りの言葉であるだけでなく、歌の起源とも考えられてきた。現在の神社神道では祝詞は言葉として唱えられるのみで、旋律的に歌われることはほとんどない。しかし江戸時代以前には、楽譜記号が記された祝詞も発見されており、歌われる祝詞の具体的な歴史的証拠と考えられてきた。本研究では、そうした祝詞の楽譜を解読することで、どういった「歌」がもっとも古い歌へと繋がっていくのかと考察することを目的とする。 28年度は、研究の第一の柱として祝詞の楽譜の解読を進めた。先学により報告されてきた祝詞楽譜に加え、天理大学吉田文庫の大祓祝詞に楽譜記号のある祝詞が複数存在することを調査により明らかにし、これらの解読を行った。これらの楽譜ではどれも能の記譜法が借用されていること、そして記号の付け方から江戸から明治期にかけて一貫した伝承が見られることを指摘した。能の謡の記譜法が借用された理由については、吉田神道と猿楽者のあいだでの翁伝授という一種の上演裁可状をめぐっての交流があったためと推測し、祝詞の音楽と能の音楽との交流のあり方について指摘した。日本音楽学会第63回全国大会(於中京大学、28年11月)において口頭発表を行い、昭和音楽大学紀要36号(29年3月)に論文の執筆を行った。 また研究のもう一つの柱として、祝詞を唱えることの意義を考察した。現在の神社神道において唱えられる祝詞の音楽面での伝承のあり方は、天皇による非公開の祝詞を神職が仰ぐべき規範としているため、祝詞の音楽的技法に関する訓練が行われているのにもかかわらず、言説が存在しないという特殊な伝承の構造を明らかにした。International Council for Traditional Music, MEA Symposiumにおいて(於台北中央研究院、台湾、28年8月)口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は一、楽譜記号をもつ祝詞の発見と解読。二、現在の祝詞が唱えられる環境や、その唱えられる背景を明らかにすることの二方面から行い、ほぼ予定どおりの研究を終えた。しかしながら、新たな問題も浮かび上がってきた。 一点目の楽譜の解読に関しては、江戸期の吉田神道に拠って記された大祓祝詞に関して、当初の予定どおりの、祝詞の楽譜の発見と解読を行った。祝詞の楽譜は、江戸期の能楽の楽譜の手法を採用していることが明らかになった。とくに能楽でもサシというフリーリズムの段落での楽譜手法が祝詞楽譜に採用されている。ところが残念なことにサシは歴史的変化が大きく、音高に関していまだ定説がなく、このための祝詞の楽譜での明確な音高を把握しがたいという問題点が浮かび上がってきた。大まかなメロディラインを把握し、祝詞の歌詞(文言)に合わせた劇的な音楽構造を明らかにできたものの、具体的な音楽としてはいまひとつ明確にはならないのである。 いっぽう、祝詞を唱えることの意義については、歌われることない現在の祝詞の伝承について考察を行い、現在の祝詞が旋律を持ちえない理由について、説明が可能となり、所定の予定どおりの研究となった。 このことから、祝詞楽譜の解読において新たに浮かび上がった問題について、祝詞の具体的旋律をより客観的に提示する方法を考える必要が生じた。このため、研究期間を1年間延長し、この問題の解決を目指すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
祝詞の楽譜は、同時期の能の楽譜をもとにしていることがわかったものの、現在の研究の蓄積では多様な解釈がある部分の記譜法に基づいており、とくに音高面での再現が困難であることがわかった。この障害を解決するためには、祝詞の周辺芸能に目をむけ、そこから推測を行うことが必要となる。 祝詞が影響を与えた芸能は数多い。そのなかでも声明(仏教声楽)のうち講式と、能楽に注目する。 まず声明のなかでも日本語の語り物的要素を持つ講式は、祝詞から影響を受けたことが岩原諦信により指摘されてきた。このため、28年度より真言宗南山進流の僧侶より講式の楽譜の読み方・唱え方の伝承を受けた。29年度には明神講式という神道系講式についての旋律に関して祝詞との交流について、口頭発表を行う予定である。 つぎに、能の番組の一部で「ノット」という宗教者が祝詞を唱える小段がある。この小段は、能の通常の謡い方とは明らかな異質さを持っている。旋律における音高の推移を楽譜の歴史的変遷と照らし合わせて分析をおこなう。すでにあらかたの調査を終えているため、29年度には論文執筆予定である。 以上、仏教声明や能といった、祝詞の周辺の芸能から、かつて歌われていた祝詞の音楽の音高面を明らかにする、という追加的研究を行うことで、より研究に客観性を与えることができると考える。
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Causes of Carryover |
28年度中に、追加研究の必要が出てきたことが判明したため、資金計画を一部見直し、追加研究の成果発表とその準備に充てることとしたため。このため、28年度中に行った地方の神社での調査など一部を私費でまかなうなどした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
祝詞に影響を与えた仏教声楽の講習を3回程度予定しており、謝金に充てるとともに、国内学会での研究発表を行うための準備の費用と旅費、参加費等に使用予定である。
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