2015 Fiscal Year Research-status Report
北朝末隋代墓誌中に混在する自律的刻法の楷書新表現に関する基礎的研究
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26370141
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
澤田 雅弘 大東文化大学, 文学部, 教授 (20162547)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 石刻 / 刻法 / 書法 / 隋 / 楷書 |
Outline of Annual Research Achievements |
「筆法に先んずる自律的刻法による楷書新表現」の可能性を示唆する「太僕寺卿元公墓誌」及びその夫人の「姫氏墓誌」の刻法について研究を進め、前者について論文「隋・太僕寺卿元公墓誌の収筆に見る楷書刻法の新表現」を公刊した。本論文では、同墓誌の鐫刻を分担した主要な刻者二名(分担者中最も手練の二名でもある)が横画末に刻出する顕著にしてかつ普遍的である三角形の筆押え表現が、隋代書法史に極めてまれであることに着目し、その三角形筆押え表現が原稿である筆跡に従属しない刻法で、類型化し時には運筆と連動しない誇張がなされる自律的刻法による可能性を論証したうえで、その表現が筆法に先んずる楷書石刻の新表現である可能性がすこぶる高いことを論じた。 また、筆法「顔法」を筆法に先んじて表現した自律的刻法を検出した前年度公刊の論文を補完する論文「道因法師碑における刻法の混在と混在状態が提起する新たな論点」を公刊した。本論文は、本研究の主たる対象である北朝末隋代からは時代が下るが、唐代屈指の能筆家の手になる名碑であることのほかに、碑中に明記する刻者名が実際に鐫刻に参与した刻者の代表にすぎないであることを論証した。これは書法に従属しない刻者が関与する鐫刻実態の旁証事例として、本研究課題の前提を補強することになった。 また、研究課題の刻法の検出のため、本務校所蔵拓の調査のほかに、8月5日、24日の両日、淑徳大学書学文化センターにおいて拓本の調査と撮影による資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文「隋・太僕寺卿元公墓誌の収筆に見る楷書刻法の新表現」で提示できた新知見は、本研究課題において大きな意義を有すると考えるが、当初計画していたその妻の「夫人姫氏墓誌」における楷書新表現を含める紙面がなく、加えて、当該表現が筆法に先んずる新表現であることの傍証の一つとして、同誌前後の他墓誌の楷書刻法を列挙する必要を思い、簡便な一覧表を製作したものの、結局、紙幅上、割愛せざるをえなかったこと。また、元氏および夫人姫墓誌以外の墓誌中にも新表現である可能性を見出し、依頼した資料整理も終えているが、これを論証に結実させることができなかったこと等、研究を論文に十全に反映できなかった。 また計画を前倒しして前年度に刊行した「隋代墓誌拓本所在目録稿」以後に、中国で原寸影印された墓誌拓本や、所蔵目録を補填した索引を兼ねる北朝隋代墓誌拓本目録補編の編集をはじめたが、その作業を終えることができなかった。 加えて報告者の本務校所蔵拓本の調査に時間を費やしたために、成田山書道美術館所蔵拓本の調査を実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
論文「隋・太僕寺卿元公墓誌の収筆に見る楷書刻法の新表現」では割愛した「夫人姫氏墓誌」について、その自律的刻法による楷書新表現の可能性を検証するほか、自律的刻法の楷書新表現の研究の対象としている他の隋代墓誌についても研究を進める。また「太僕寺卿元公墓誌」及び「夫人姫氏墓誌」の楷書新表現の源流の可能性が類推できる事例も検出しているので、それらの関係についても研究を進め、以上の研究結果を踏まえてより意義深い内容に即して論文を執筆し公刊する。また、隋代を通じて認められる楷書刻法の一般的表現の図表をさらに綿密にし、論文に反映したいと考えている。 なお、「筆法に先んずる自律的刻法」による楷書新表現の事例を検出するために、成田山書道美術館所蔵の墓誌拓本を調査する。 また、「隋代墓誌拓本所在目録稿」「北朝墓誌拓本所在目録稿」公刊以後、原寸で影印された墓誌拓本、また拓本所蔵機関が刊行した所蔵拓本目録をもとに、両目録稿を補足した「北朝隋代墓誌拓本所在目録稿索引・補編」も公刊すべく編集を進める。
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Causes of Carryover |
本務校所蔵拓本を重点的に調査することに時間を費やしたために、学外の拓本所蔵機関での調査が淑徳大学書学文化センターに止まって、調査を計画していた成田山書道美術館への出張ができなかったこと、ならびに調査を行った上述の両機関でえた資料から、研究課題に関わる重要な事象を検出でき、その研究を最優先したこと、加えて新出土資料を影印した新刊本中に整理分析の必要性が高い対象が少なかったことから、資料整理に当てる人件費が計画を下回った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
中止した出張及び新資料の購入に充てる。
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Research Products
(2 results)