2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370163
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
越智 和弘 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60121381)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 性による理性的思考 / 科学を凌駕する神話形成 / 理性の処理能力の限界 / 電磁場的思考 / 存在認識の異なる文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
フルッサー・アルヒーフと、レベッカ・ホルンのインスタレーション『反時計回りのコンサート』が設置されたツヴィンガー牢獄への訪問から、研究初年度に得られた成果をさらに積み上げるべく、同地への再訪問を実施した。その際、アルヒーフにおいてもミュンスター美術館においても、当初の予想をはるかに上回る資料が保管されていることが判明したことから、アルヒーフにおいては、管理責任者であるダニエル・イルガング氏、ミュンスター美術館においては、ツヴィンガー牢獄の歴史を長年研究してきたベルント・ティア博士の両氏との連絡を密に取りながら、2年目の訪問調査の計画が立てられた。 具体的には、アルヒーフにおいては、3点の著作、『ヴァンピュロトイティス・インフェルナリス』、『歴史後の世界』、『悪魔の歴史』に関するフルッサー自身の原稿収集と、自伝的著作『底なし』で描かれる、フルッサーの出身地であるプラハが及ぼした影響についての資料収集と意見交換が計画された。その際イルガング氏からは、時期を同じくカールスルーエで開催中であったフルッサーの展覧会を訪れることを強く勧められた。よって本年度は、カールスルーエに立ち寄ることが旅程に組み込まれ、その成果には替えがたいものがあった。 ツヴィンガー牢獄に関しては、17世紀にミュンスターが再洗礼派の拠点となり、カトリックとの間で繰り広げられた血なまぐさい戦いに、ツヴィンガーが重要な役を果たした可能性が推察され、ホルンの作品のタイトルが喚起する「反時計回り」は、ナチスに限らず、ツヴィンガーを舞台にくり返された歴史的過去を遡ることを指しているのではないかという推察が強まった。ツヴィンガー再訪の際に、その点をティア博士と議論した結果、研究担当者の推測の正しさが裏づけられただけでなく、想定をはるかに超える関連資料の存在に行き当たるとともに、芸術と史的存在物との深い関係に気づかされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
フルッサー・アルヒーフとミュンスター市美術館関係者の積極的な協力を得られたおかげで、両地域の調査から、研究には予想を上まわる進捗がみられた。具体的にみると、フルッサー研究に関しては、渡独した時期と同じくして、先端的芸術の拠点として世界的に知られるカールスルーエ・メディア芸術センター(ZKM)で開催された、フルッサー展覧会「底なし-ヴィレム・フルッサーと芸術」を訪問できたこと、また会場内で、一般客には許されない作品の閲覧や写真・ヴィデオ撮影が特別に許可されたことが、研究にとって大きな収穫となった。さらに、展覧会と時期を合わせてFlusseriana: An Intellektual Toobox(フルッサー辞典)が出版され、会場でも展示された。この本には、研究担当者も依頼を受けて執筆したSinnlichkeit(官能性)の項が、厳格な査読をへて掲載されたことも、研究の大きな成果としてあげられる。 さらに初年度調査の結果、フルッサー最大の問題作の題名であるヴァンピュロトイティス・インフェルナリスが実在する深海生物であり、それが19世紀末転換期に、ドイツが国を挙げて深海調査を行った際に発見されたこと、そして、その剥製と当時描かれたスケッチ画が、ベルリン自然史博物館に存在することが突きとめられ、本年度の調査旅行中に、博物館の特別な配慮により、現物を閲覧できたことも,研究の収穫となった。 ツヴィンガー牢獄とホルンのインスタレーション『反時計回りのコンサート』に関しては、建物を再訪すると同時に、ティア博士との意見交換を進めるなかから、建物内の通路が反時計回りになっていることと、ナチスの残虐行為にとどまらず、建物が過去にさまざまな暴力行為の舞台となってきたことに気づかされた。このことから、芸術作品と歴史的建造物との数奇な関係性への問題意識が高まった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度、平成27年度に引き続き、ベルリン芸術大学のヴィレム・フルッサー・アーカイヴとミュンスター市立美術館を訪問することを計画しているが、研究最終年度となる平成28年度は、これまで得られた知見をもとに、フルッサーの思想を、ミュンスターのツヴィンガー牢獄と結びつけること、具体的には、芸術作品と歴史的建造物とのこれまで分析されることのなかった芸術にたいする存在論的な考察をもって本研究を締めくくりたい。具体的には、 1.フルッサー・アルヒーフにおいては、フルッサーの著作原稿の調査を進めつつも、ととりわけ彼が晩年にハイデッガーの影響を受けて推し進めた芸術観を、ミュンスターのツヴィンガー牢獄という存在と、ホルンの芸術作品が相俟って喚起する「反時計回り」的思索に重点をおく。 2.とりわけツヴィンガー牢獄においては、研究を積極的に手助けしてくれるティア博士が、長年研究対象としてきたミュンスター再洗礼派について、さらには、ツヴィンガーが18世紀北ドイツの有名な建築家ヨハン・コンラート・シュラウンにより、ヨーロッパ初の本格的な刑務所の一部として再建造されたことなど、ホルンのインスタレーションによって「反時計回り」に建物の歴史を遡るなかから蘇るツヴィンガーをめぐる歴史的事実について、専門家であるティア博士と意見交換をおこなうとともに、美術館が所蔵する資料収集と分析に当たる。 本研究の成果は、平成27年度に名古屋大学文学研究科の依頼を受けて実施し、本年度も引き続き行うこととなった講義「ヴィレム・フルッサー概論」において、学生にフィードバックすると同時に、研究初年度以降一貫して毎年2篇ずつ発表してきた「脱肉体化時代の官能的思索」をテーマとする論文として発表する。
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Causes of Carryover |
研究目的に沿い助成金を使用した結果、次年度用に使用額が残ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度同様、次年度は、主としてドイツ、ベルリン芸術大学のヴィレム・フルッサー・アーカイヴならびにミュンスター市美術館において調査、意見交換、資料収集をおこなうための渡航宿泊費および資料収集に伴う雑費に,その使用を充てることとする。
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