2014 Fiscal Year Research-status Report
騙し絵と遠近法箱にみる17世紀オランダの視覚レトリックについて
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26370168
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遠近法箱 / 騙し絵 / レトリック / 視覚 / 17世紀 / オランダ / ヘイスブレヒツ / 光学 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、デンマークとオランダで現地調査を行った。コペンハーゲン国立美術館を訪ね、ヘイスブレヒツの絵画と遠近法箱の資料収集をした。デンマーク国立博物館では、当該分野の専門家でもあるポール・グリンデル=ハンセン氏と面会し、彼の計らいでデンマーク王室が所蔵していた遠近法箱を含む当時の目録や文献の原本を閲覧した。 次にオランダを訪問し、バウテンプラッツ美術館に貸し出し中の遠近法箱を調査した。ハーグのブレディウス美術館での現地調査も行った。17世紀オランダの画家、そして芸術理論家のサミュエル・ファン・ホーホストラーテンの専門家、タイス・ウェストタイス氏とも会談し、当時のレトリックの文化的受容について情報を得た。これらにより、当時の騙し絵と遠近法箱を分析するとともに、現状の課題について理解を深めた。現地調査で集めた映像資料をPCでデータベース化している。 現地調査と並行して、絵画理論とレトリックに関する文献を視覚論の観点から読み進めた。17世紀オランダで(古典)レトリック概念が受容される過程、とりわけ絵画や芸術分野での領有過程を調査した。ホーホストラーテンの理論書(『絵画芸術の高き学び舎への手引き』)が示すレトリック的絵画理解、アルベルティの『絵画論』受容、デカルトの『屈折光学』を含む光学の言説等の文献を読み進めた。分析の結果、レトリックと同時代の絵画論、そして哲学潮流(「方法」概念等)との、これまで深く掘り下げられてこなかった関連性を発見した。言語的なものとされているレトリックの思考が、視覚的なものを下支えしていることが確認された。絵画・視覚論の視点からの初期近代のレトリック概念の構築を最終的に試みる予定である。 成果として、アムステルダム大学開催の国際議論学会にて、17世紀の光学の言説と絵画に関する視覚議論の研究を発表した。発表原稿は、同シンポジウムの論文集に収録が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、多くの関連資料についてのリスト化、絵画の鑑賞、先行研究等の文献調査を中心的に行なった。同時代の関係資料の収集や分析は概ね順調に進んでいる。さらには調査により新たな研究対象が浮き彫りになるなどの進展も見られるが、本研究に基づく論文は現在のところ1編にとどまっており、今後、研究内容を論考としてまとめる作業を進めたい。一部、計画していた作品の閲覧及び関連する文献の調査をおこなえていない部分もあるが、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には平成26年度の方針の延長線上で研究を進めていく。 今後は、まだ訪問できていないデトロイトとロンドンの美術館を訪問したいと考えている。これにより、実際に現地に出向いて、数少ない遠近法箱を全て観察することとなる。 騙し絵のレトリックの総括については、美術史での視覚研究と騙し絵の系譜のマッピングを進める。これ迄の文献調査により、17世紀のレトリック概念がルネサンス以降の古典レトリックの受容、そしてアルベルティによる遠近法の理論化の過程で重要な役割を果たしていることが確認された。この歴史的変容にも焦点をあてて、調査を進めていく。 騙し絵の歴史および理論研究については、オランダを中心とした欧州の17世紀状況を明らかにするために、引き続き関係者や研究者への聞き取り調査を行うとともに、文献調査や作品分析を通じた理論的研究も並行して行っていく。そうすることで、騙し絵と遠近法箱という視覚技術がもつ文化的意義やその理論的可能性についての考察を深めていく。
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