2015 Fiscal Year Research-status Report
騙し絵と遠近法箱にみる17世紀オランダの視覚レトリックについて
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26370168
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 騙し絵 / 遠近法箱 / レトリック / 視覚(文化) / ヘイスブレヒツ / サミュエル・ファン・ホーホストラーテン / 唯物(性) / エージェンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
今回、現地調査として、デトロイト美術館所蔵の遠近法箱を閲覧した。ミシガン大学にも訪問し、ホーホストラーテンの専門家であるCeleste Brusati教授と面会し、騙し絵と遠近法箱についての意見交換をした。ホーホストラーテンを解釈する際にテクストや作品を字義通りに解釈せず、パフォーマティブに捉える注意点等について情報を得た。フィラデルフィア美術館にも訪問し、覗き穴のインスタレーションであるマルセル・デュシャンの「与えられたとせよ 1.落ちる水 2.照明用ガス」を閲覧した。集めた映像資料はデータベースにしている。 また、17世紀オランダのレトリック論と建築表象を専門とするCaroline van Eck教授と会談し、レトリックの文化受容について情報を得た。特に、レトリックと熟議との関連で、アムステルダムのダム王宮が果たした役割をご教授頂いた。 研究代表者が所属する大学でコーディネーターを担った視覚文化に関する国際フォーラム「<見える>を問い直す」において、視覚論の第一人者であるキース・モクシー教授やデューラー研究の第一人者アンヌ・マリー=ボネ教授など、国内外の専門家13名と視覚と唯物論、そして視覚技術等について発表と討議を行い、視覚の専制やその歴史と文化、技術性を批判的に解明することの意義を議論した。この来学の機会を利用し、彼らとの情報交換をすすめた。更に、外国語で発表された講演の翻訳と研究発表を中心に、著作として編集し出版する作業を進めている。大学内で諸分野の先生方の協力を得ることで、視覚文化研究についての研究コミュニティが出来上がったことも成果と考える。 フォーラムのモクシー教授の講演を基に、視覚と唯物性、エージェンシーについて考察した論文が『理論で読むメディア文化』の一章として出版される。視覚文化の自明性を批判する視座がエージェンシーの中にあることを示唆するものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、視覚文化論的な枠組みのもとで、17世紀の騙し絵と遠近法箱が、どのようなイデオロギー的価値を持つか、またその視覚装置のどこで抵抗的な力を発揮し視覚の自明性に亀裂を入れるのかを、具体的事例に即して批判的に検証することである。平成27年度は、視覚装置と絵画作品の鑑賞とシンポジウムのコーディネートを中心に行なった。同時代の関係資料の収集や分析は概ね順調に進んでいる。 本年度については、シンポジウムをコーディネートし、論文を発表した。コーディネートしたシンポジウムは視覚文化論的に関するものだが、このことによって当初の研究目的の未熟さに気づくこととなった。というのも、このシンポジウムの参加者は、視覚論の第一人者であり、共有する問題意識として、視覚の唯物性や視覚以外の感覚との連関性があった。この文脈において、視覚のあり方と批判の仕方について、改めて見直す必要を感じたからである。フォーラムのコーディネートで理論的な成果はあったが、文献調査については、必ずしも十分な成果があったとは言えない。連関する文献の範囲は数限りないが、今後は、文献読解の方針・範囲を明確に定めた上で、実行する必要を感じている。 さらには調査により新たな研究対象が浮き彫りになるなどの進展も見られるが、本研究に基づく論文は現在のところ2編にとどまっており、今後、研究内容を論考としてまとめる作業を進めたい。一部、予定していた作品の閲覧及び関連する文献の調査をおこなえていない部分もあるが、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に今年度の方針の延長線上で研究を進めていく。 今後は、まだ訪問していないロンドンの美術館を訪問したいと考えている。これにより、実際に現地に出向いて、全ての遠近法箱の観察が完了することになる。 前年度に引き続いて、騙し絵のレトリックの総括については、美術史と美学分野での視覚研究のマッピングをして、騙し絵の系譜をたどる。騙し絵の歴史および理論研究については、オランダを中心とした欧州の17世紀状況を明らかにするために、引き続き関係者や研究者への聞き取り調査を行うとともに、文献調査や作品分析を通じた理論的研究も並行して行っていく。そうすることで、騙し絵と遠近法箱という視覚技術がもつ文化的意義やその理論的可能性についての考察を深めていく。
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Causes of Carryover |
科研費での現地調査を執行する際、予定よりも支出を抑えることができた。更に、購入を予定していた文献の一部が絶版で手に入れることができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題は、資料収集(現地調査を含む)と資料読解を基礎とするものであり、本年度も資料収集に多くの予算をあてることになる。17世紀の騙し絵関係の資料 (図書、雑誌、研究論文等)、近代のレトリック・芸術学関連の資料、視覚文化論関連の資料、現代レトリック理論関連の資料を広く収集する。次年度は本研究課題の最終年度にあたり、最後の現地調査を予定している。そのための経費を計上している。また研究成果を著書としてまとめて広く社会に還元する予定である。 最後に、本年度は国際学会での発表が実現できなかった。適切に執行した結果、残高が生じた。本年度残額の146,600円は、現地調査に充てる予定である。
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