2014 Fiscal Year Research-status Report
共感の設計-発達障害へのメディアアート的アプローチ-
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26370185
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Research Institution | Aichi Sangyo University |
Principal Investigator |
村上 泰介 愛知産業大学, 造形学部, 准教授 (40410857)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 発達障害事例研究 / 模倣と創造 / 身体と共感 / 発達障害とダンス |
Outline of Annual Research Achievements |
発達障害(主に自閉症スペクトラム)の人と他者との共感を通した心の交流へといたる方法を探るため、本研究では発達障害の人の他者との芸術的関わりの事例として福祉施設における舞踊家とのダンスセッションを調査してきた。ダンスは即興であり、特定のシナリオや振り付けなどは存在せず、舞踊家の巧みな身体動作が、ダンスワークショップに参加している多様な障害を持った人たちの動きや発声を引き出していく。このダンスセッションで発達障害の男性は舞踊家のダンスを真似ることを通してダンスセッションを展開する。この模倣を媒介としたダンスセッションを映像として記録し事例研究を進めた。模倣に着目したのは、多くの発達障害当事者研究から、当事者が模倣を苦手としていることが考えられるためである。発達障害にとって、苦手とされる他者の模倣を通してダンスセッションを展開してきた舞踊家と発達障害の男性の模倣を、現場での目視と映像記録を分析することを通して観察を中心に調査を進めて来た。ふたりの関係性から、その特徴などが明らかになり、多様な関係性をみせる舞踊家と発達障害の男性のダンスセッションを通して発達障害の身体的模倣について考察することができた。しかし、映像記録だけではふたりの微細な動きを捉えることが不十分であるため、加速度センサーなどを用いた装置を独自に開発し、微細な動きの計測データを記録しはじめている。これらの研究を通して発達障害の人の他者に対する身体的な模倣についての事例として、その関係性をより詳細に探るとともに、この関係性を可視化する方法を確立し、ひろく一般に理解を促すための基盤が確立できると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、発達障害の人と健常(定型発達)の人の芸術的関わりの中に、これまでの療育とは違う視点による共感へといたる方法を探ることを目指している。本年度は、福祉施設で開催されるダンスワークショップに、ダンサーとして参加する発達障害の男性の事例調査を中心に進めている。ダンスワークショップは舞踊家を中心に即興で展開するため、事前の振り付けやシナリオなどは無く、参加者も多様で毎回異なる様相を見せる。また実施される環境も福祉施設内が中心ではあるが、スタジオ内であったり、往来の多いギャラリー内であったり、坂になっている屋外の通路であったりと様々である。こうした多様な場において、舞踊家と発達障害の男性のダンスセッションを目視と映像記録の精査によって観察を続けて来た。一般に発達障害(中でも自閉症スペクトラム)では模倣に対して様々な困難を抱えている。しかし、調査している発達障害の男性は模倣を媒介に舞踊家の身体の様々な運動を取り込み、ふたりのダンスセッションを展開している。そのため身体的模倣を鍵として、このダンスセッションについて分析し、考察を続けてきた。観察と考察を通して、ふたりの毎回のダンスセッションに共通する身体的運動の特徴がみられることが明らかになってきた。こうした特徴を可視化し、ひろく一般にも理解できるように映像記録に加えて、加速度センサーを用いた装置を独自開発し、ふたりの微細な動きの変化を取得しデータ化する試みも開始することができた。舞踊家と発達障害の男性のダンスセッションにおける身体的模倣において、ダンスを通じたふたりの身体的相互理解が重要な位置を占めている。本年度の事例研究を通じて、発達障害の人と健常の人の共感へといたる方法のひとつの形として提示していくための基盤づくりができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、初年度において発達障害の人と健常の人の芸術的関わりの事例として福祉施設における舞踊家と発達障害の男性のダンスセッションを調査してきた。調査は現場での目視による観察と、映像記録の精査、および多様な立場で関わる方たちからのインタビューなどを中心に進めて来た。この調査から明らかになってきたのは、ダンスセッション中の舞踊家と発達障害の男性の関わりにおける動きのタイミングである。ふたりのダンスセッションにおいて、お互いの動きが鏡のようにぴったりと合っている場面が多く見られるが、そうした動きの同期にいたる課程において、映像記録を精査していくと、舞踊家がダンスを主導しているばかりではなく、発達障害の男性が先に動きはじめて舞踊家を誘っているような場面が少なくないことがわかった。こうした動きのタイミングの微細な関係性を探るために加速度センサーを用いた微細な動きの計測装置を独自開発し動きの計測データを取得することを開始することができた。今後は映像記録に加え、この独自開発した装置による微細な動きのデータも合わせて、舞踊家と発達障害の男性との関係性のダイナミクスを捉えていきたい。また計測したデータを適切にビジュアライズする方法も研究し、映像記録をもとにしたアニメーションと合わせて一般の人が舞踊家と発達障害の男性の関係性について理解を深められるようなディジタルコンテンツ制作の基盤作りも進めていく。
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Causes of Carryover |
福祉施設で実施されるダンスワークショップへの参加が日程調整の都合で当初予定していたよりも少なくなったため旅費の支出が少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
福祉施設で実施されるワークショップなどへの参加の他、今後は初年度の研究成果をもとにした連携研究者へのインタビューなどが多数予定されるため、旅費および謝金を有効活用し、研究を多角的な視点から検証していく計画である。
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