2015 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本文学の再「転向」-舟橋家所蔵資料による大衆文学の新視点
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26370264
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
石川 肇 国際日本文化研究センター, 研究部, 機関研究員 (80596734)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 舟橋聖一 / 新資料 / 大衆文化・文学 / 文学史 / はがき・書簡 / 芥川賞 / 遺書 / 競馬文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる27年度は未公開の「舟橋聖一宛の葉書・書簡680通」(実際は2000通を超えていることが28年5月現在わかっている)を調査・整理することによって、文学研究に新たな展開を起こした。その成果の一端を新聞紙上(10紙)で報告した。例をあげれば①京都新聞(2015・7/9)に「舟橋聖一宛て文豪の書簡」と題し、川端康成や三島由起夫らの書簡を紹介。この川端の書簡は谷崎潤一郎をノーベル文学賞に推すための根回しを舟橋にお願いしたものである。②朝日新聞(2015・9/7)に「芥川賞選考 見えた分断の舞台裏」と題し、芥川選考委員だった舟橋に渡辺淳一や北杜夫、大庭美奈子らがその駆け出し時代、お礼の手紙をおくっていたことから、「文壇」というものの存在を改めて浮かび上がらせることができた。また、舟橋の遺書を発見を京都新聞に「舟橋聖一 苦悶の「遺書」」(2016・3/20)と題し、家族を取り巻く不幸と、祖父が足尾銅山鉱毒事件に関わったことの因縁につき提示することにより、彼の奔放なイメージを覆した。さらには、舟橋聖一と競馬文化を追いかけることにより、第11回週刊Gallopエッセイ大賞(産経新聞社)を「舟橋聖一の愛馬命名と女たち」で受賞。その後は2015年10月から2016年3月までの半年間、競馬雑誌『週刊Gallop』に「馬の文化手帖」と題し、井上靖や北杜夫ら芥川賞や直木賞作家から岡本太郎や赤塚不二夫ら画家や漫画家にいたるまで、多くの文化人と馬の関わりをとらえた「アカデミック競馬エッセー」を連載し、大衆文化研究にあらたな領域を切り開くことができた。またさらに、NHK大河ドラマの第一作目となった舟橋聖一原作「花の生涯」につき、なぜ舟橋がそれまで書いたこともない歴史小説を書いたのか、その謎を解くことができ、それを国際日本文化研究センターにおける共同研究会(2015年9月19日、坪井班:戦後日本文化再考)で発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初670通程度と思われていた舟橋聖一宛て「はがき・書簡」が約2000通であったこともわかり、また、その内容も翻刻等で徐々に解明できつつあるなど、整理が順調に進んでいることによる。さらにはエッセー大賞受賞によって週刊誌に「アカデミック競馬エッセー」を半年間連載できたことにより、大衆文化・文学の広がりや変化を、従来研究とは違った視点から再検討することができたことによる(舟橋の芸者夏子など、多くの大衆小説を取り扱うことができた)。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目となる28年度は戦後の大衆文学に関する調査を、より上位概念となる大衆文化から広く捕らえ直していく。その方法として、①文化人から送られてきた舟橋聖一宛書簡の翻刻およびデータベースを構築し、活用する。現在、はがき・書簡のうち、はがきに関してはすでに終えているので、今後は書簡に着手する。②また、NHK大河ドラマ「花の生涯」等の資料をさらに精査していき、「文壇」を中心とした戦後の大衆文化・文学と、戦前との連動と変化を追究していく。さらには10月から再開される「アカデミック競馬エッセー」執筆において、引き続き多方面からの大衆文化・文学研究を行っていく。
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