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2015 Fiscal Year Research-status Report

16世紀イングランド文学における浮浪者の表象研究

Research Project

Project/Area Number 26370290
Research InstitutionGakushuin University

Principal Investigator

中野 春夫  学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)

Project Period (FY) 2014-04-01 – 2017-03-31
Keywordsシェイクスピア / イギリス演劇 / ルネサンス / 浮浪者 / 貧困問題
Outline of Annual Research Achievements

二年目の平成27年度は演劇および詩作品、散文物語など文学の領域における浮浪者の表象を調査・分析した。対象は市民喜劇を中心とするエリザベス朝演劇、同時代の社会風刺を含んだバラッド、浮浪者への転落/浮浪者の社会復帰をテーマとする散文物語などである。調査に当たっては浮浪者を以下の理由から三つのカテゴリーに区分してその特性の分析を行った。
最初期の浮浪取締法(1490年、1531年)は浮浪者を漠然と「健常な物乞い」と規定していた。ところが1548年以降、浮浪取締法は段階的にその範囲をより具体的に拡大し、(a)引籠りやホームレス、就業日数が極端に少ないフリーターに相当する離職者/失業者/非就労者(1548年)、(b)鋳掛屋(tinker)や行商人(peddler)、大衆芸人(common player)などドサ周りで生計を立てる特定の業種(1551年)、さらには(c)ジプシー、アイルランド人およびスコットランド人流入者など無宿者に該当する特定の外国人(1572年)を浮浪者と認定するようになった。上記の(a)(b)(c)はそれぞれ現代社会の若年層差別、職業差別、人種差別に対応し、その負のステレオタイプ的イメージは近代社会への過渡期に生まれた新たな社会的弱者の表象モデルとなっている。
二年度は(a)(b)(c)のカテゴリーそれぞれの浮浪者表象分析を、(a)は貧困に陥りやすい若年層や未婚女性に特徴的な表象(b)は日本の「的屋(テキヤ)」に相当する地方巡業者、(c)アイルランド人に特化して分析を行った。研究成果は『十二夜』及び『リア王』の浮浪者表象を論じた2点の論考に発表した。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

16世紀イングランド社会における貧困問題を扱う社会史研究はJohn PoundのPoverty and Vagrancy in Tudor England(1971)など貧困者対策に焦点を合わせた基礎的研究を生みだしてきた。なかでもよく知られるのがA.L.BeierのMasterless Men: The Vagrancy Problem in England 1560-1640(1985)であり、Beierは同時代の裁判記録では「エリザベス朝の裏社会」の実在が裏付けられず、文学作品やパンフレットが描く浮浪者像はフィクションである可能性が高いことを指摘している。
16世紀英文学と社会史の領域における研究成果は16世紀の浮浪者にかんするある不思議な現象を示唆している。同時代のイングランド人は「アイルランド人の詐欺商人(a Irish toyle)」や「体を売る小物売り(a bawdy-basket)」、「狂人乞食(an abram-man)」など、演劇作品や散文物語、パンフレットに登場するさまざまな浮浪者のイメージを理解できていた。ところが社会史研究の成果によればこの種のイメージは現実の浮浪者とは著しく異なり、その多くの部分がフィクションである。本年度においては浮浪者表象におけるイメージの独り歩き現象の起源をたどり、その歴史的過程を明らかにできた点が非常に有意義な成果である。

Strategy for Future Research Activity

現時点まで順調に研究計画を実行できているので、申請通りに最終年度も調査・分析を進めていく。最終年度の平成28年度は初年度および二年度に得られたデータの分析成果に基づき、カテゴリー別に負のステレオタイプ的イメージの生成過程を解明する。当該年度においてとくに注目する対象はWilliam Harrisonの『イングランドの描写(The Discription of England)』(1577)である。この資料はホリンシェッド年代記の巻頭に収録されているいわば準公式版のイングランド解説書であり、その第10章は同時代のイングランド社会における浮浪者をAwdeleyやHarmanのパンフレットに依拠しながら詳細に紹介している。現時点の仮説として、同時代の人間がパンフレットで描かれる扇情的な浮浪者像を実在のものとしてリアルに受けとっていたとすればこの書の影響がきわめて大きかったことと予測している。
最終年度は議会制定法とジャーナリズム、演劇等の娯楽産業の相互影響のなかで、今日の若年層差別、職業差別、外国人差別の起源に相当するものが形成される過程を定式化し、その成果を最終報告書もしくは単著の形で公表する予定である。

Research Products

(2 results)

All 2015

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 1 results)

  • [Journal Article] 浮浪者喜劇、『十二夜、あるいは皆様が望むもの』2015

    • Author(s)
      中野春夫
    • Journal Title

      学習院大学人文科学研究所紀要『人文』

      Volume: 第14号 Pages: 79-95

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] 「国王」の浮浪者―『リア王』の響きと怒り2015

    • Author(s)
      中野春夫
    • Journal Title

      学習院大学文学部研究年報

      Volume: 第63号 Pages: 105-131

URL: 

Published: 2017-01-06  

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