2015 Fiscal Year Research-status Report
クリストファー・マーロウ『フォースタス博士』の校訂本をマローン協会から出版する
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26370291
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
英 知明 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (60218518)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マーロウ / フォースタス博士 / 書誌学 / 初期近代演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マローン協会(The Malone Society)の依頼によ り、シェイクスピアと同時代の劇作家であるクリストファー・マーロウの悲劇『フォースタス博士(Doctor Faustus)』の校訂本をMalone Society Reprintsシリーズから出版することである。
本研究は、平成26年度から平成28年度までの三年間で遂行される。研究方法は、英国に僅か一冊ずつしか現存しない『フォースタス博士』のAテクストとBテクストの古版本を直接使用し、多くの書誌学データを収集して印刷当時の歴史情報を復元することにある。Aテクストは、オクスフォード大学ボドリアン図書館に収蔵されており、Bテクストは、大英図書館が保管している。1年目にAテクストを対象とした印刷工程の研究を実施し、2年目はBテクストについて同様のリサーチを行う。そして3年目はそれらの書誌学情報を統合してデータとしての精度を高めつつ、校訂本のためのイントロダクションを完成させる予定である。
2年目の平成27年度は、実際に英国へ赴いて現地に滞在し、とくにBを重点的に調査することで、Bの書誌学・本文研究のデータを多く集積し、本課題の達成に必要な基礎的資料を構築することであった。そのためロンドンの大英図書館に所蔵されているBテクストの古版本を利用して、マイクロフィルムからは探索できない精緻な書誌学情報を収集した。また依然として解明されていないBを作成した印刷所特定のための作業も、多くの資料を使って様々行った。比較すべき「研究資料」として欠かせないAテクストの書誌学研究は、平成28年度に渡英し、オクスフォード大学ボドリアン図書館にて実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の根幹をなすAテクストおよびBテクストの書誌学的研究は、現存するオリジナルコピーを直接使用して現地で実地に研究を遂行しなくてはならない。そのため、本研究の最も重要な部分である本文・書誌学情報を収集するリサーチは、現地に赴いてオクスフォード大学ボドリアン図書館およびロンドンの大英図書館で行なわれる。
1年目の平成26年度は、その目的のため英国へ渡航してリサーチに励む予定であったが、カラー画像の購入費が予想をはるかに越えて高額だったため、渡英は翌年度に持ち越し、その分画像に加え多くの研究書や論文、博士学位取得論文などを購入して、課題遂行のための環境整備を行った。
2年目の平成27年度は、渡英して実地にリサーチをすることができたものの、大英図書館でのBテクストのリサーチに思いのほか時間が掛かり、オクスフォードでのAテクストのリサーチにまで割く時間が取れなかった。そのため、ボドリアンでの補足的な実地調査を平成28年度に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、AおよびBテクストのうち、とくにAに重点をおいて、オリジナル古版本を使った詳細かつ精密な書誌学研究を遂行する。Aは、オクスフォード大のボドリアン図書館に現存するわずか一冊の古版本を詳細に調査し、これまでの先行研究の概要や、印刷原稿の性質の推測、ヘッドラインや watermark などから判明する印刷工程、植字スタイルや、特徴的なスペリングから推測できる植字工の人数などについてのデータの収集を行い、帰国後にイントロダクションの執筆を開始する。またBについては、すでに平成27年の8月に渡英し、約二週間ロンドンに滞在して、大英図書館に残るコピーの書誌学情報収集できた。ただし不十分な箇所もあるので、今回さらにそれを補強するリサーチをロンドンで行う。
本研究の最終年となる平成28年度には、これまで二年間に渡り集積した書誌学データの精度を高めるため、購入したAテクストやBテクストに加え、『フォースタス博士』のデジタル画像や、マーロウや他の劇作家の作品の研究書やデジタル画像を用いて検証を深める。夏休み以降は、それぞれのテクストのイントロダクションの執筆を加速させ、平成28年度末までに両テクストについての序文執筆を完了し、マローン協会に提出する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度には、英国での現地調査により、AテクストとBテクストの書誌学テータをすべて集積する予定であったが、現地到着後に先ず着手したロンドンの大英図書館に収蔵されている『フォースタス博士』Bテクストの書誌学調査に、想像以上の時間が掛かってしまった。とりわけ印刷所特定のための欠損活字探しに苦慮することとなり、予定していた期日内に終了できず、日程を延長したため、結果的にオクスフォードでの現地調査の予定を切り崩して行うこととなってしまった。そのため、Bテクストについてはかなり研究が進んだものの、Aテクストについてはまだ充分な結果が得られていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの実地調査から、Aテクストについては依然として充分な結果が得られていないため、当該年度に生じた未使用額は、平成28年の初夏に渡英して、オクスフォードで集中的にリサーチを行って昨年からの遅れを取り戻す予定。またロンドンでも補足的なリサーチを敢行して、二つのテクストについて漏れのない情報収集を行う。未使用額は、そのための費用の一部にあてる予定である。
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Research Products
(2 results)