2016 Fiscal Year Research-status Report
環境汚染問題への英語圏モダニズムの文化的介入法を分析する
Project/Area Number |
26370316
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 雄三 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (10273715)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小杉 世 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (40324834)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | モダニズム / エグザイル / 故郷回復 / エコロジー / 核実験 / キリバス(クリスマス島) / 環境芸術 / マオリ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、山田が「水俣学」の遺産を分担担当し、小杉がミクロネシア諸島における「ポスト石炭産業」と文学を担当し、それぞれ以下のような成果を得た。 「水俣学」の遺産(山田)・・・第二次世界大戦後に石炭から石油へのエネルギー転換が起きると、ウェールズや九州では 廃坑が相次いだ。九州最大の筑豊炭田で失業者した人びとのなかには、基幹産業となりつつ あった石油化学産業に職を求めることとなる。そして、この産業でも優良企業とされていたチッソの 水俣工場で、その排水が原因で、1950年代の終わりに水俣病が発生する。この時期、炭坑共同体と水俣に関わ ったモダニスト集団に石牟礼道子がいる「サークル村」があった。その活動のなかから、 多様な文学のフォームが生まれている。そのなかでも、今年度は水俣病患者を表象する手法として、ルポルタージュ形式や「わたし」語りが誕生した経緯を明らかにした。 「ポスト石炭産業」(小杉)・・・小杉は英米による核実験が行われたキリバスのクリスマス島で調査を行った。実験当時、クリスマス島に在住していたキリバス人民間人(コプラ農園労働者ほか)の被爆者たちが共同体を形成するタブァケア村で、被爆一世を中心に、実験当時の記憶とその後の生活の変化について、ライフ・ヒストリーを聞き取った。4月に発行された論文の一節では仏領ポリネシアでの核実験で故郷を追われたクジラの群を描くマオリ作家イヒマエラの小説のクジラの視点から開示される海底の物語に福島原発事故後の放射能汚染影響下にある海の生物や、英米仏による核実験で移動を余儀なくされたり、一部は補償も認められていない太平洋諸島国家の民間被爆者たちの物語を重ねて論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の事象は、20 世紀に起こった以下の三つの環境汚染である。(1)ひとつに後期 モダニズムが対象としていた地域、南ウェールズの炭坑地帯における環境破壊がある。これへの反応としてウェールズ語と英語を言語メディアに「産業小説」と呼ばれる新しいリアリズムの形 態が誕生する。(2)また、研究分担者の小杉世はオセアニア地域のモ ダニスト系作家たちを中心に、彼らによる環境言説を継続的に調査している。とりわけ核実験によってディアスポラとなった人びとの体験を代弁/表象するオセアニアの作家・芸術家たちが、放射能によって破壊されたひとと動植物、風景とのあいだの関係をどのようなかたちで再構築しよ うとしたかを追跡調査している。(3)高度成長期にさしかかる日本では、石油製品産業の負の 現象として水俣病が発生した。石牟礼道子ほか九州の作家たちが「奇病」と呼ばれた水俣病を表象し、患者救済のための政治に文筆によって介入している。 このうち(2)と(3)に関しては、順調に調査が進捗している。(1)に関しては、日本で入手可能な資料が数少ないために、現地でのより集中的な調査が必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたるこの年には、これまで調査した内容をすりあわせる作業が中心となる。鉄鋼・造船などの第二次産業で19世紀に「世界の工場」となった英国 産業のエネルギー供給源となったのはウェールズであった。ボタ山や河川汚染を間近で経 験したウェールズ作家のなかから、当事者と観察者(作家)と、その両方の声を記録しよ うとする「リアリズム」が誕生する。これを「境界線上のリアリズム」と仮に呼びたい。 その文学形式はエネルギー転換以降に石油化学工業が盛んになる都市や、ウラン鉱山や核 実験で汚染された地域でも、かたちを変えて応用されるようになる。最終年度には、この仮説を裏付けるべく、最終的な海外調査を行う。その上で、この仮説を出版物やウェブサ イト等で公表する予定でいる。
|
Causes of Carryover |
研究年度の最終時期で、ネイティブによるマオリ語等の言語協力が必要とわかり、謝金に充当すべく35000円程度残しておいたが、実質の謝金が20000円であったため、15607円が未執行となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は本研究の最終年度にあたり、英語での論文執筆を予定している。その論文校正の謝金にこれを充当する。
|