2014 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学におけるヒューマン・エンハンスメントの進化と「幸福の追求」の未来学
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26370317
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 克昭 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (10182908)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / ヒューマン・エンハンスメント / Richard Powers / 幸福の追求 / 生命のデザイン / Don DeLillo / メタフィクション / 遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒューマン・エンハンスメントが関わる分野は広範に及ぶので、本年度は通時的観点からエンハンスメントのヴィジョンを多様なメディア表象の分析を通じて抽出し、本研究の基盤をなす見取り図の作成に取り掛かった。アメリカの神話やジェンダーも視野に入れ、必ずしもそうした事象を明示的に扱っていないテクストにも留意しつつ、アメリカ小説においてエンハンスメン卜的要素がいかに表象されてきたか、マッピングを行った。そのような見取り図を踏まえつつ、DeLillo、Powers、Atwood の小説を手掛かりに、能力増強、遺伝子操作等など、生命のデザインに関わる領域において、次の 4つの問題系を中心に考察を進めた。1)生命の道具化と商品化、2)リベラル優生学と公平さ、3)人間の不完全性、生の被贈与性、4)メタフィクショナルなデザイン。そのうえで、特に1980 年代以降のフィクションにおいて描出された言説や情念の分析を通じて、アンチエイジングや死の恐怖といったテーマが「幸福の追求」といかなる関係を切り結んでいるかを検証した。 以上の考察を踏まえ、研究の一端を日本アメリカ文学会中・四国支部冬季大会シンポジウムにて講師として発表し、論文「『幸福』のこちら側―Richard PowersのGenerosityに見るExuberanceとResilience」『英米研究』第39号、大阪大学英米学会、2015年、31-55にまとめた。本論文では、PowersのGenerosityにおいて、「書くことは常に書き直すこと」というメタフィクショナルな言説が、ゲノムの編集との関係において神学的意味を帯び、遺伝子の「書く」と「書き直し」の狭間に生息するメタフィクショナルな「亡霊」Thassaが、まさに人類の岐路を占う試金石として、ExuberanceとResilienceを惜しげもなく包摂する詩神だったことを明らかにした
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セルフメイド・マンと徹底した個人主義によって、エンハンスメントの実現を目指してきたアメリカ的想像力に垣間見えるリベラル優生学的なイデオロギーを、「幸福の追求」という文脈において批判的に描出し、そうした一連の操作に対する文学の復元力に富む応対力を学際的に分析中である。合衆国が世界に先駆けて具現する未来へのヴィジョンと、それを反復的に脱構築する表象困難な破滅の兆候を、サイバー資本、バイオ産業、生命の商品化などのといった視座から炙り出す作業は、ほぼ計画通り順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、グローバル化した日常に加速度的に浸透するエンハンスメントへのヴィジョンが、いかに複雑に交錯する情動を発動するか、「幸福の追求」の未来学との関係において、その生成のダイナミズムを丁寧に解きほぐしていきたい。その際、限られた期間内で成果を挙げるために、4つの大きな柱を設定し、毎年度、先行研究の整理と分析枠組みの検討を行いつつ、研究活動を実施する。 なお、年度毎に4本柱のそれぞれの領域における進捗状況を的確に把握するとともに、研究が当初計画通りに進まないときの対応としては、分析対象とする作家、メディアをさらに絞り込むなど、計画全体の整合性が損なわれないよう、適宜柔軟に組み替えを行い、研究期間中に必ず一定の成果が得られるよう調整をはかりたい。
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