2016 Fiscal Year Research-status Report
トランス・アメリカ―19世紀アメリカと環カリブ海地域との文化交渉と文学的想像力
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26370330
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
庄司 宏子 成蹊大学, 文学部, 教授 (50272472)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学・文化 / カリブ海地域 / ポストコロニアリズム / 奴隷制度 / アメリカ・ルネサンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ合衆国が19世紀半ばの国内の西漸運動と国外(本研究ではカリブ海地域を対象とする)への帝国主義的拡大をみせる時代に、政治的・社会的状況が同時代の文学や文化の言説とどのように関わっているか、その連動や共振を考察することを目的としている。平成28年度は、ロバート・C・サンズのハイチを舞台とした知られざる小説「ブラック・ヴァンパイア」(1819年)とアメリカ・ルネサンスの重要作家エドガー・アラン・ポーの1842年の短篇「赤死病の仮面」と1843年の「黄金虫」をポーの軍隊時代の体験と絡めて分析した。ポーは生計を立てるため1827年から二年間ほどアメリカ陸軍に入隊するが、その間1827年11月からサウス・カロライナ州チャールストンのサリヴァン島にあるムールトリ要塞で勤務をしている。そこでポーはカリブ海ハイチ(かつての仏領サン=ドマング)からの移民の流入や自由黒人層というアメリカ南部の奴隷制度のもとでの人種構成とはおよそ異なるチャールストンの状況を体験したと思われる。そうした体験がこれらの小説に描かれた赤死病やジュピターといった黒人キャラクターの造型と関係しているとことを分析した。またカリブ海のジャマイカ(かつての英領植民地)出身のアメリカ作家ミシェル・クリフの1993年の小説『フリー・エンタープライズ』に描かれたジョン・ブラウンによる1859年ハーパーズ・フェリー兵器廠の襲撃を活動や資金面において協力したとされる黒人女性たちの描写に、アメリカ合衆国とカリブ海地域をつなぐ国際的な奴隷制廃止運動の地下的ネットワークを考察した。以上の考察に関しては、二度の学会発表をおこない、また二本の論としてまとめた。論文は平成29年度に二冊の共著本のなかに収録予定である。このほか、2015年3月出版の著書『アメリカスの文学的想像力──カリブからアメリカへ』を改稿し、博士学位論文とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始当初の計画に従って、おおむね順調に進展している。研究の成果は論文や学会発表という形で行っている。論文が共著本に収録されるときは、共同執筆者や出版事情があり、すぐに当該年度に本の出版にいたらないこともあるが、個人でできる部分は順調に進めている。研究のための資料や作家・作品分析の過程で、新しいトピックに拡がることもあるので、さらに資料を収集したり、最近のポストコロニアリズム研究の動向も視野にいれながら、研究を継続させていくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、これまでと同じく、資料を収集しながら作品分析を行う予定である。今年度はアメリカ建国期の重要な作家チャールズ・ブロックデン・ブラウンの1799年の小説『アーサー・マーヴィン』を、当時の首都フィラデルフィアとカリブ海地域やヨーロッパとの環大西洋の文化的・政治的交渉を、これらの地域間での交易圏の登場やフランス革命やハイチ革命など革命の余波、建国期アメリカの自己像の形成といった観点から分析したいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年度に予定していた海外出張を、研究発表や論文執筆の時間を確保するため行うことができなかった。海外出張に当てる予定だった金額を翌年度分として請求させていただいた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には海外出張を行い、研究遂行に必要な資料(図書や雑誌文献など)の収集にあたりたい。出張先としてはカリフォルニア州立大学バークレー校かスタンフォード大学を予定している。
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