2016 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ系アメリカ文学に於けるイスラエル表象と平和のレトリックの考察
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26370336
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
相原 優子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30409396)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ユダヤ系アメリカ文学 / 他者 / ホロコースト / 暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
「ユダヤ系アメリカ文学に於けるイスラエル表象及び平和のレトリック」というテーマを考察していく中で、何度も立ち戻らなくてはならないのが、やはりユダヤ系文学に於けるホロコーストのテーマである。ソール・ベローの作品の初期の作品の中でとくにホロコーストのテーマが色濃く反映されているのが、第二次世界大戦終了から2年後に出版された『犠牲者』(1947)である。本研究に於いて多大な示唆を与えてくれるエマニュエル・レヴィナスの「他者」の概念と、その概念を独自に展開しているジュディス・バトラーの「応答」という二つの思想を主に援用しながら、「他者」というキーワードから作品分析を試みた。その試みは、ベロー作品に於けるニューヨークという特定のトポスの持つ意義をも再確認することになった。この論文の中では、作品の主人公が「他者」と出会うことにより、新たな「主体」、すなわち「倫理的な主体」を獲得するまでのプロセスが描かれていることを論じた。また、ベロー文学とは無関係に思われる「環境」という観点からベロー後期の作品『学生部長の12月』(1982)を分析した。この作品は、主に身体への具体的な「暴力」を巡る物語であり、「暴力」を巡る倫理的なテーマを、より宇宙的な規模で捉えた作品である。この作品を、一見ベロー文学研究に於いて無関係に思われながら、度々作品の中で言及されるシカゴの「鉛公害問題」という観点から分析することによって、ベローが後期にかけて、伝統的な小説というスタイルからより新しい文学スタイルの構築を目指していたこと、またテーマに於いては、自身の内面よりも自分の「外」へと関心を広げていく手法をとるようになったことを確認した。「他者」と「環境」というキーワードは、今後「イスラエル表象と平和のレトリック」という観点で研究を進めていく上で重要なものになると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の目的としては、ソール・ベローと二人の女性作家の作品分析を行う予定となっていたが、ベローの研究に思いの外時間がかかり、女性作家Cynthia OzickとGrace Paleyの作品分析には未だ至っていない。Cynthia Ozickについては、ある程度準備が整い始めているので、論文としてまとめたいと思っている。Paleyについては、特に環境保護の持つ「平和」のレトリックという観点から作品分析を行いたいと思っている。ベロー作品における「環境問題」を論じた研究を土台に、今度はPaleyの作品分析を行いたいと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
ベロー作品に於いて「イスラエル表象」を考える上で非常に重要な作品として『サムラー氏の惑星』(1970)の分析を行いたい。ベロー作品の研究を基本軸としながら、二人の女性作家たちCynthia OzickとGrace Paleyの作品を「イスラエル」「平和」という観点から分析を行いたいと思う。
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Causes of Carryover |
最終年度である平成28年度中に研究を続けてきたテーマについて論文を2本執筆する予定であったが、学務やその他の仕事のため、論文執筆に入る準備がまだ整っていない状況であったため補助事業期間延長を申請した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究の集大成となる論文執筆のため、その時に必要となる資料などの購入に充てる。
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Research Products
(2 results)