2014 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランスの描写詩における自然描写の生成―博物学的著作の受容とその変奏
Project/Area Number |
26370366
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (10422908)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 仏文学 / 美学 / 哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度はまず、数年来取り組んできたサン=ランベール『四季』批評校訂版出版を刊行した。この批評校訂版が刊行されたことをうけ、平成27年7月に、オランダのロッテルダムで開催される国際18世紀学会にてサン=ランベールについてのセッションを行うことが決定した。なお、このセッションでは本研究課題研究代表者がチェアパーソンを務め、フランス、スウェーデンのサン=ランベールの研究者とともに研究成果を報告する予定である。 さらに、サン=ランベール『四季』改訂版における修正作業の意味について、この作品に展開される「不安」、「倦怠」、「苦痛」の概念に注目しながら検討し、その成果を慶應義塾大学の紀要に投稿した。 今年度(平成26年度)は、描写詩についての研究成果を発表するにとどまらず、「感受性の<不>道徳性と教育―イギリス文学におけるジェンダー編成の諸相」研究会にて、ルソーにおける感受性と快楽の問題に関する研究報告を行った。その結果、18世紀英文学の専門家の方々と研究分野の垣根を越えて感受性について活発な議論が出来たのは貴重な経験であった。 夏期休暇中には3週間弱、年度末の春季休暇中には2週間弱フランスに滞在し、フランス国立図書館にて、描写詩(サン=ランベール、ドリール、ルーシェ)に織り込まれた自然描写に見られる博物学的著作の影響について資料調査を行った。加えて、国際18世紀学会での研究発表に向けて、サン=ランベールの奢侈論に関する文献収集も行った。その成果は、平成27年度中に国内外の学術誌への論文投稿の形で発表したい。また、フランス滞在中はシルヴァン・ムナンパリ第4大学名誉教授をはじめ、パリ第4大学に所属する17, 18世紀フランス文学の専門家と、アンシャン・レジーム期の韻文に関する研究の現状について意見交換を行うとともに、国際18世紀学会でのセッションの打ち合わせをした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度はまず、描写詩の代表作であるサン=ランベール『四季』について、特に詩人とディドロやルソーをはじめとする当時の思想家に注目しながら批評校訂版を作成し、出版した。『四季』の批評校訂版はこれまでに存在しなかったから、この業績自体、フランス18世紀の韻文研究において重要な位置を占めるものと考えられるが、この批評校訂版出版によって、さらに2つの波及的成果が得られた。まず、この批評校訂版準備中にサン=ランベールによる加筆修正作業の特徴について考察を進め、その成果の一部を学内紀要への投稿論文としてまとめられたこと。次に、この批評校訂版がきっかけとなり、平成27年度に国際18世紀学会でセッションを設けることになったこと。つまり、校訂版作成作業が終着点とはならず、次のステップに進むきっかけとなったのである。とりわけ、国際18世紀学会では、サン=ランベールの経済思想、特に奢侈論と『四季』との関係について論じる予定であり、描写詩への新たなアプローチの可能性に気づくことが出来たのは、今年度の大きな収穫の一つと言える。このようなアプローチを通して、サン=ランベールの詩人としての功績にのみならず、百科全書派としての功績にも新たな光を当てることが可能になるだろう。 またサン=ランベールについての研究を進めるのみならず、ルーシェやドリールの作品に見られる自然描写への博物学的著作の影響について資料調査を進めることが出来た。したがって、次年度以降、より視野を広げて描写詩に関する研究成果を発表する下準備が着実に進められたと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度前半は、7月に参加予定の国際18世紀学会におけるサン=ランベールのセッション準備に研究の焦点が当てられる予定である。本研究課題研究代表者は、サン=ランベールが『百科全書』の項目に展開している経済思想と、『四季』との関連性について検討を進める予定であるが、さらにセッション参加予定のフランス、およびスウェーデンの研究者と密に連絡を取り、これまであまり注目を集めてこなかったサン=ランベールの重要性を国際的にアピールするセッションを開きたい。また、セッションでの報告内容については、本務校の紀要、あるいは『ディドロ、「百科全書」研究』に投稿したい。 国際18世紀学会参加後は、ルーシェ、ドリールの作品における自然描写の研究に集中的に取り組みたい。夏期休暇中にフランスに2、3週間滞在し、平成26年度に引き続いてフランス国立図書館でさらに描写詩と博物学(とくにビュフォンの『博物誌』)との関連についての資料調査を行う予定である。そして、ドリールの自然描写についての研究成果を論文にまとめたい。その際、シルヴァン・ムナン名誉教授をはじめ、パリ第4大学に所属するアンシャン・レジーム期の韻文の専門家から適宜アドバイスも受けたい。 平成27年度後半および平成28年度前半にかけては、『百科全書』に収録されている博物学関連の項目も読み込んでいくこととする。『百科全書』の読解にあたっては、マリ・レカ=ツィオミパリ第10大学名誉教授をはじめとする専門家の助力もあおぎたい。平成28年度後半は、3年間の研究成果を国内外の学術誌に積極的に発表していきたい。
|
Research Products
(3 results)