2015 Fiscal Year Research-status Report
アルベール・カミュ『手帖』-オリジナル原稿の復元と新しいカミュ像の探究
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26370368
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高塚 浩由樹 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (90297771)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カミュ / 手帖 / 草稿研究 / 生成研究 / 最初の人間 / 追放と王国 / カルネ / カイエ |
Outline of Annual Research Achievements |
カミュの『手帖』は、従来、交通事故で亡くなった作家が遺した、手つかずの客観的資料とみなされてきた。しかし、出版された『手帖』には、作家が生前に加えていた修正の内容が、明示されぬまま含まれている。本研究は、特に『手帖』の第1・第7ノートに関して、修正前後での内容の違いを明らかにする「校訂版」を作成しようという3年計画の試みであり、2年目の本年は、以下の内容が研究の柱となった。 1.『手帖』第7ノートに加えられている修正内容の精査。特に、2016年2~3月に、エクサンプロヴァンス市立図書館のアルベール・カミュ資料センターにて行った、第7ノートのオリジナル原稿と2種類のタイプ原稿の調査。 (1)第7ノートの1953年秋から1954年7月にかけての記述に加えられた修正が、遺作となった自伝的小説『最初の人間』に関連するメモに集中していることが確認できた。(以前の調査で、『手帖』第1ノートに加えられた修正も、『最初の人間』の執筆の構想に大きく関わっていたことが判明している。) (2)第7ノートの1952年の記述に加えられた修正と、短編小説集『追放と王国』との間の密接な関連性が確認できた。第7ノートの『追放と王国』関連のメモのうち、少なからぬメモが『手帖』のオリジナル原稿には存在せず、タイプ原稿の推敲の際に書き加えられたものであることが判明した。 2.2016年3月に、パリ国立図書館にて行った、『追放と王国』の執筆とアルジェリア戦争との関連についての先行研究の調査。カミュは故郷アルジェリアに関する数多くのメモを『手帖』に残しているが、第7ノートの修正箇所が、『追放と王国』および『最初の人間』に関するメモに目立つことと、両者の小説の舞台がいずれもアルジェリアであることは偶然ではないだろう。『手帖』の修正と、カミュのアルジェリア観の変遷の関連は、今後の研究において明らかにすべき課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、2014年度と2015年度にそれぞれ2回ずつ、フランスでの資料調査(特にカミュの『手帖』の原稿の調査)を行う予定であった。しかし、2014年10月に父が亡くなり、その後、母の介護にあたることとなり、母が死去した2015年10月までは、フランスでの調査を見送らざるをえなかった。 その後、2016年2~3月に約1ヶ月間、フランスでの資料調査を行うことができた。そのため、『手帖』第7ノートに関しては、当初の計画どおりに研究を進捗させることができたけれども、『手帖』第1ノートに加えられている修正の内容に関する調査の進捗は、当初の計画よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度に関しては、フランスにおける資料調査を2回行うとともに、可能な限り現地での滞在期間を長くして、2015年度末までに発生している研究の遅れを取り戻し、『手帖』第1・第7ノートに関する「校訂版」の作成を進める方針である。
また、2015年5月刊行の『カミュ研究 Etudes camusiennes』第12号に収録された拙論 "La Source "russe" de "L'Hote" dans L'Exil et le Royaume"(「『追放と王国』所収の『客』の『ロシア的』源泉」)での考察を発展させるべく、2016年2~3月のフランスでの資料調査によって確認することができた、『手帖』第7ノートへの修正と『客』の推敲のプロセスとの連動性に関する論考を、2017年に Classiques Garnier から出版される予定の La Revue des Lettres Modernes Albert Camus 第24号への掲載に向けて執筆する。
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Causes of Carryover |
2014年10月以来、約1年間にわたって、実家のある浜松で母の介護をすることになり、当初予定していた、2015年9月および2016年2~3月の、合計2回の現地調査の実施が、後者1回のみにとどまったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度には、現地調査を2回実施するとともに、それぞれの現地調査の期間を出来るだけ長くして、遅れ気味になっている研究を当初の計画通りに進捗させる。
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Research Products
(1 results)