2016 Fiscal Year Annual Research Report
Albert Camus's "Notebooks" - an attempt to restore the original manuscripts and to search for a new image of Camus
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26370368
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高塚 浩由樹 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (90297771)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カミュ / 手帖 / 草稿研究 / 生成研究 / 最初の人間 / 追放と王国 / カルネ / カイエ |
Outline of Annual Research Achievements |
カミュの『手帖』は、従来、事故死した作家が遺した手つかずの資料とみなされてきた。しかし、『手帖』には、作家が生前に加えていた修正が、明示されぬままに含まれている。本研究は、『手帖』の9冊のノートのうち、修正箇所の多い第1・第7ノートに的をしぼり、修正前後の内容の違いを明らかにする「校訂版」を作成しようという試みである。その最終年度にあたる本年は、2度にわたってエクサンプロヴァンス市立図書館に赴き、以下の1と2を柱とする調査・研究を行った。 1.『手帖』第7ノートのオリジナル原稿とタイプ原稿の調査。特に次の2点の精査。(1)『追放と王国』に関する一連の断章。断章の大部分が、あとから挿入され、さらに修正を加えられたものであることが判明した。(2)『最初の人間』に関する、連続的な断章。その中にはあとから追加された断章があること、そして、出版された『手帖』第7ノートに複数回登場するこの小説のタイトルが、すべてあとからの加筆であることが判明した。 2.短編小説集『追放と王国』所収の「客」の草稿調査。『手帖』第7ノートのタイプ原稿で削除されているトルストイに関する読書メモが、アルジェリアを舞台にした「客」のストーリーの源泉となっていることを確認した。 3年の研究期間を通じて、『手帖』第1ノートの校訂版作成のための調査はほぼ終了することができたが、第7ノートに関しては、タイプ原稿の作成時に新たに挿入された断章が少なからずあること、それゆえ、出版された『手帖』第7ノートの断章の順番は、断章の実際の執筆順を示していないことがわかった。カミュによる『手帖』の修正が、『最初の人間』をはじめとする将来の作品の構想を練り上げていく作業であったことは明らかであり、この種の作品の構想と進展のプロセスを解明するために、第7ノートにおける断章の実際の執筆順を確定することが、新たな研究課題として浮かび上がった。
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