2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370385
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (30411002)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イタリア近現代演劇 / 未来派 / 演出家 / ピランデッロ / 国際情報交換(イタリア) |
Outline of Annual Research Achievements |
1、学会発表「演出の成立過程における未来派演劇の貢献」 (イタリア学会第62回大会、2014年11月8日、愛知県立大学) 19世紀後半から20世紀前半にかけてのイタリア演劇の特殊性(巡業劇団の階層構造、俳優の身体の中心性、未発達の劇作法、演出家の登場の遅れ等)について、同時代の他のヨーロッパ諸国の演劇事情との比較を交えつつ明らかにしたのち、その内側における未来派演劇の文脈化を「演出」という側面から試みた。その結果、俳優中心の劇作法が主流であった20世紀初頭のイタリア演劇において、未来派による「演出主体の演劇」への貢献は、①観客を能動的に劇的行為へと参加させる手法を成文化し、舞台空間を拡大したこと、②同時性や浸透といった手法に代表される新しい劇作法を提唱し、同時に演出の手法を豊かにしたこと、③色彩や光、造形的なセットや衣装などを通して、演劇が要求する精神を表現することができるという認識のもとに、スペクタクル性を重視した空間を構成したこと、の3点にあることを明らかにした。
2、海外の演出家によるイタリア公演の影響関係に関する予備研究 20世紀初頭から、イタリアにおいて「演出家」という職能が誕生した1930年代までに、イタリア国内において海外の演出家により上演された公演について、当時の劇評などを基に網羅的に調査を進めている。今年度はミラノ大学等において文献調査と収集を行った。この研究を、イタリア国内の進歩的な劇作家や座長、俳優らの動向と重ね合わせることで、イタリアにおける演出に成立過程をより詳細に跡付けることができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近現代イタリア演劇における演出の成立過程という研究目的に対して、申請者はとりわけ未来派の綜合演劇、劇作家ルイジ・ピランデッロの「劇中劇三部作」、劇評家シルヴィオ・ダミーコによる演出家・俳優の養成学校「国立演劇アカデミー」の創設の3点を重要な転換点としてとらえ、それらの綿密な調査を中心に3年間の研究実施計画を立案していた。 初年度にあたる平成26年度は、そのうちの1つ未来派演劇について、演出の成立過程の中に文脈化を試み、未来派演劇の貢献は、主に舞台空間の改革と新しい劇作法の提唱、そしてスペクタクル性の追求にあったことを学会発表において明らかにして、当初の目的の大半を達成することができた。 しかし、未来派に関する研究を進めていくうちに出てきた、海外の演出家によるイタリア公演の影響や当時のヨーロッパにおける歴史的前衛運動との関わり、ほぼ同時期に発生していた劇作家兼座長による劇作法改革やグロテスク劇とのつながりといった課題については、研究に取り掛かってはいるものの、平成26年度中にその成果を発表するには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、前年度より研究を進めている「海外の演出家によるイタリア公演の影響関係に関する研究」と「劇作家兼座長による改革やグロテスク劇の劇作法に関する研究」を推し進め、イタリア演劇における演出の成立過程への文脈化を遂行することから始めたい。前者に関しては、2006年度以降、ミレッラ・スキーノを中心とするアクイラ大学の研究者グループが綿密な調査を進め、その成果を継続的に雑誌上に発表しているので、そうした競合研究の成果を十分に吟味・分析した上で、申請者の研究課題へと統合していきたい。後者に関しては、具体的には1912年から15年までミラノのマンゾーニ劇場で市立劇団の座長を務めたマルコ・プラーガ、1921年に自らの劇団を立ち上げ巡業公演を行ったダリオ・ニッコデーミ、そして1925年からローマ芸術座を率いたルイジ・ピランデッロの3人の劇作家兼座長とグロテスク劇の代表的作家であるルイジ・キアレッリとロッソ・ディ・サン・セコンドの劇作法に着目して演出行為との接点を探るつもりである。なお、この2点の成果に関しては、27年度中に何らかの形で発表することを考えている。 最終年度に当たる平成28年度に関しては、当初の予定通り劇評家シルヴィオ・ダミーコによる「国立演劇アカデミー」の創設と、そこにおける演出家・俳優の養成法を中心に、イタリア演劇における演出家の誕生のプロセスを解明することで、当研究課題をまとめあげ、ヨーロッパ演劇史におけるイタリア演劇の功績を客観的に位置付けていきたい。
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Research Products
(1 results)