2014 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・アヴァンギャルドの時代における科学と芸術の相互作用
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26370387
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
GRECKO Valerij 神戸大学, 国際文化学部, 非常勤講師 (50437456)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド芸術 / ロシア文学 / 優生学 / ユートピア / 国際研究者交流(ドイツ) / 国際情報交換(セルビア、イスラエル) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はロシア・アヴァンギャルドの時代(特に1920~1930年代)における科学(生物学、生理学、遺伝学)と芸術の相互作用について、①具体的なモチーフのレベル、②世界観と構造的特徴のレベル、③メタ・レベルの3つのレベルで明らかにすることを目的としている。26年度の課題は「新しい人間」という科学と芸術に共通するモチーフがどのような形式で出現し、科学と芸術の間でどのように影響を及ぼし合ったかを検証することだった。研究の成果は次の通りである。 1.「新しい人間」は当時最も重要な生物学的・優生学的な研究テーマのひとつであると同時に、アヴァンギャルド芸術で最もよく取り上げられたモチーフのひとつだった。優生学はロシア革命直後に国の支援を受けて非常にポピュラーになるが、それは共産主義において「新しい人間」を生み出そうとする新政府の方針に沿ったものだったからである。 2.アヴァンギャルド芸術の分析に際しては、次の3つの観点を考慮に入れる必要がある。①当時の客観的・科学的な認識、②当時のソ連政府のユートピア的・イデオロギー的な方針、③それぞれの芸術家の美的特徴、である。芸術作品の分析にとってはもちろん美的な観点が最も重要であるが、科学的・イデオロギー的背景を知らなければ、作品の美的な価値を正しく認識することは不可能である。 3.たとえば、ブルガーコフの『犬の心臓』(1925)は、その文体やストーリー展開などの観点から評価が高く、この時代に書かれた中編小説の傑作とされている。しかし、ブルガーコフが医師として当時のソ連その他のヨーロッパ諸国でさかんに行われていた生物学的・医学的実験の成果(臓器移植、人間と動物の交配など)をこの作品に盛り込んでいること、さらにブルガーコフが当時の共産主義政府の「新しい人間」を作り出そうとする努力をパロディー化していることを無視した分析は十分とは言えない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度の課題だった「新しい人間」というモチーフに関する研究は、計画通り進捗している。「新しい人間」というモチーフを盛り込んだ文学作品として、先述のブルガーコフの小説『犬の心臓』(1925)のほかにも、ルンツの戯曲『サルが来る』(1923)、トレチャコフの戯曲『赤ちゃんが欲しい』(1926)、セルヴィンスキーの戯曲『パオパオ』(1932)を分析することができた。また、長期休暇を利用してドイツに滞在し、ロシア文学の専門家であるゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)やカール・アイマーマッハー教授(ボッフム大学)、ヘンリーケ・シュタール教授(トリーア大学)と意見交換を行ったほか、それぞれの大学付属図書館で資料を収集した。また、アヴァンギャルド芸術の専門家であるコルネリア・イーチン教授(ベオグラード大学、セルビア)、イリーナ・トルスタヤ教授(エルサレム・ヘブライ大学、イスラエル)とは、電子メールなどを使って緻密にコンタクトを取り、意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は1920~1930年代に書かれた文学作品の分析が中心だったが、27年度には当時の科学と芸術の在り方を操作していたイデオロギー的傾向と諸機関について詳しく調査する。具体的には、1920年代に創設されたものの、1929年に政府によって禁止され、解消を余儀なくされた「ロシア優生学協会」と、人間と動物の交配を奨励した1920年代の政府の方針、さらに党の方針によって誘導された1930年代の遺伝を否定する風潮と環境の絶対視について調査し、イデオロギーの展開がアヴァンギャルド芸術にどのような影響を及ぼしたかについて考察する。 28年度は、科学と芸術に見られる世界観と構造的特徴の類似について分析し、そのユートピア性と革新性について考察する。特にルイセンコの生物学的理論とN.マールの文化人類学的・言語学的理論、P.カメラーの生物学的理論を分析の対象とし、その構造的特徴を抽出して、それらがアヴァンギャルド芸術のコンセプトとどの程度共通しているかを明らかにする。 29年度はそれまでの研究成果に基づいて、科学と芸術との関連についてメタ・レベルで考察するとともに、科学と芸術の相互的な影響関係について、認識論・方法論的に考察する。その際、特に「ドミナント」の概念を中心に、科学と芸術の間の翻訳可能性についての普遍的原理を明らかにすることを試みる。 各年度の研究成果については、適宜、学会や国際研究集会などで発表し、論文にもまとめる。
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Causes of Carryover |
新しいノートパソコンと、パソコン関連消耗品を購入する予定で予算を計上していたが、すでに所有していたパソコンがまだ十分に機能したために、購入は次年度以降に延期することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定通り、ロシア・アヴァンギャルド/科学史・記号論関連の書籍を購入し、意見交換・資料収集(ベルリン自由大学、ボッフム大学)および成果発表(ベオグラード大学)のための旅費として使用する。
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Research Products
(3 results)