2014 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭の中国における知の形成とナショナリズムー周作人と民俗学
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26370414
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
子安 加余子 中央大学, 経済学部, 准教授 (10377468)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 周作人 / フレイザー / 『金枝篇』 / 『サイキスタスク』 / 野蛮人 / 「鬼」 |
Outline of Annual Research Achievements |
周作人が創出した中国民俗学は、folklore(英)、Volkskunde(独)、柳田国男(日)の影が色濃い。彼が西洋の学術思想全般を広く摂取し、同時に柳田の著作に接したのは、日本留学期(1906-1911)に遡る。特に、イギリスを中心とするヨーロッパで19世紀末に盛んになった人類学へ傾倒することで、民族、宗教、風俗、性学への理解を深めており、中でもJ.G.フレイザーへの評価が高い。 周作人はフレイザーの代表的著作(『金枝篇』、『サイキスタスク』等)を受容することで、「野蛮人」に対する理解を、国民性批判へと応用する(1920年代)。その一方で、原始宗教が生成される根源ともいえる死者に対する恐怖、タブーといったものへ共感を寄せながら、中国の死後の世界観(「鬼」)を語り始める。その語り方や手法が、フレイザーのそれと非常に近似している点から、中国人の「真心」(「鬼」)を知る術として、フレイザーの研究手法と文章スタイルが応用されたことがわかる。周作人における民俗学とは、資料的価値そのもの(「無用の用」)であり、独立した学問として成立することに懐疑的立場を取るものだった。そこでは知的暴力の介在を避けたいという強い意志が読み取れ、西洋近代の価値観を受容し、相対化することで、自国の民俗に対する視座を獲得していたと考えられる。 以上、周作人の民俗学形成の思想的源泉の一端を整理したことにより、中国民俗学創出との関係を探る為の準備作業を一つ終えたことになる。中国学術史における民俗学の思想史的意義を検討していく作業は継続するが、周作人の民俗学とは何かを検討しながら、周作人というケーススタディーを通して、中国への西洋学問伝播の形態を解明していくことの重要性が再認識されることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目に予定していた「周作人と人類学周辺」(西洋民俗学と中国民俗学)というテーマにそくして、とりわけ周作人の民俗学形成の重要な源泉であったフレイザーとの思想的接点をおよそ整理し終えた。併せて周作人の人類学受容のあり方をたどることで、20世紀初頭の中国における西洋近代学問の伝播形態を探る端緒を得たといえる。なおフレイザー以外にも周作人が吸収した知的養分として、H. エリスや、A. ラング等との関係性をより詳細に分析するという検討課題は残されているものの、二年目に予定している「周作人と日本民俗学」(日本民俗学と中国民俗学)というテーマへ進めていくことが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、二年目の題目「周作人と日本民俗学」(日本民俗学と中国民俗学)にそくして、主として周作人民俗学と柳田国男民俗学の学術的発想の相違、研究手法の特徴や両者の学術的影響関係、戦争と民俗学の問題を検討しながら、中央民俗学運動から一定の評価を得、周作人も購読していた日本飛騨考古土俗学会が刊行した地方民俗学雑誌『ひだびと』の精読を行う。 同時に、周作人の思想的変遷と比較検討が可能と思われる『ひだびと』の主催者・江馬修(なかし)を検討対象に据えながら、日本民俗学に対する周作人のまなざしの学術的・今日的な意義付けを行う予定でいる。その際、成城大学民俗学研究所における調査、及び柳田国男の膨大な著作の精読、入手困難な『ひだびと』周辺の調査が必要不可欠であると認識している。
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Causes of Carryover |
国立国会図書館のデジタルライブラリーを利用したことにより、当初予定していた資料代(コピー代含む)が節約可能になった為、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
地方民俗学雑誌『ひだびと』に関連する、日本民俗学関連書籍の購入および、現在作成中の「周作人、民俗学関連講読年表」作成等の作業に必要なOA機器の購入を予定している。また、資料収集・研究発表に関わる出張旅費が必要になる予定である。
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Research Products
(2 results)