2014 Fiscal Year Research-status Report
言語発達遅滞の症例分析に基づく文法能力獲得の実証的研究
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26370452
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高井 岩生 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 研究員 (30437751)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文構築 / 項構造 / 構文検査 / 発達遅滞児 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の目標は、発達遅滞児を対象とした構文検査の基盤となる理論の構築及び検査の手法の開発である。構文検査を行うには、いくつかの文型・構文を提示し、それぞれの文型・構文の理解度を評価していくが、そのためには、どのような構文を提示すべきかということと、ある構文は理解できるが、別の構文は理解できないというような結果をどのように評価すべきかということが一意に定まるような理論が必要である。基本的な理論としては高井2009で提案している項構造を利用した文構築のモデルを用い、これを精緻化する作業を行った。台湾の研究者である徐ペイリン氏の協力を得て、中国語からの新たな視点を取り入れることができ、理論は検査の土台になるに十分なほど精緻化できたと考えている。この作業による成果の一部を「直接受身化と一項化のラレ」2014年12月20日 台湾日本語文学会 『2014年度台湾日本語文学国際学術研討會 国際會議手冊』93-99頁に掲載し、また、台湾の淡江大学において開催された2014年度台湾日本語文学会で「直接受身化と一項化のラレ」というタイトルで口頭発表を行った(2014年12月20日 新北市 台湾)。 次に、心理言語学者の安永大地氏(金沢大学)の協力を得て、静止画ではなく動画や実際の実演を利用した検査方法の可能性を追求した。従来の静止画に基づく検査では、単語単位の理解を調べることは可能であるが、文単位の理解を調べることが難しい。特に、動作の開始・進行・終了の各段階を理解しているかどうかということを調べることができない。安永氏とは、動画や実演を使った検査が本研究には最適であるという点で一致した。安永氏との議論の成果は、金沢大学角間キャンパスにおいて開催された科研合同ワークショップ『言語の理論・理解・発達遅滞』(2014年3月31日から2015年4月1日 金沢市 石川県)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時において、26年度に達成すべき目標としていたことは、検査及び評価の基盤となる理論を構築することである。理論が構築できないと、どのような構文を提示すべきかということと、ある構文は理解できる、または理解できないという結果が何を示すのかということを評価することもできない。理論の構築は順当に進んでおり、申請時に想定した被験者に対する検査文の選定と検査結果の評価は可能になったと考えている。 申請時に想定していた限りでは、当初計画していた以上のスピードで進んでいる。しかし、27年度は計画を多少変更し、被験者の範囲を申請時に考えていた以上に広げ、検査項目も大幅に増やすことを考えている(詳細は「今後の研究の推進方策」で述べている)。増やした検査項目も理論的に扱えなければならないので、この点で理論を拡張する必要がある。理論構築は、当初の計画よりも早く進んでいるが、当初の計画にはなかった作業を行うことになった分、達成度は「おおむね、順調」であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の目的は、文法能力の存在を発達遅滞児の症例を分析することにより、実証することである。そのために、特に動詞の項構造に注目し、項構造の獲得段階と発話で観察される文の構造との間に対応関係があるということを明示的に示そうとしている。 当初の計画では、今年度中に遅滞児に対して検査を行い、その結果を理論的に分析する段階に入る予定であった。しかし、臨床の現場にいる言語聴覚士との共同作業を通して、現場では、文レベルの理解を調べるための検査手法及び評価基準が、まだ確定していないことを痛感した。現時点において、藤田郁代氏などが提案している分析手法が存在するが、それを適用できない幼児の数は多い。言語聴覚士の方々からは、理論を臨床の現場で応用するにはどうすればよいのかという質問や我々が考えている検査手法についてもっと知りたいという声をいただいた。そのため、当初の計画を若干変更し、今年度は、文理解の検査手法の精度をより高めることとした。 具体的には、NPO法人ことリと連携し、言語聴覚士との勉強会を数回開催し(現時点の予定では7月、9月、11月)、その場で理論的な背景と検査の意図を説明する。検査に用いる語彙や動画、実演が適切であるかどうかを判断してもらい、修正箇所があれば適時修正する。その後、この手法を用いて検査を行ってもらい、使いやすさ、客観性などの点についての判断を仰ぐ。 項構造の獲得と文法能力の発達だけに目を向けるならば、能動文だけを対象にした検査で十分である。しかし、検査の精緻化を図るには、能動文以外の構文も検査対象にしなければならない可能性が生じる。そのためには、再度理論を見直す必要があるだろう。ニュージーランドのオタゴ大学の言語学者であるJ.-R.Hayashishita氏を6月5日から12日まで招聘し、理論についての共同研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由は、検査用ソフトの開発を延期したため、謝金及び人件費が当初計画していた額よりも低くなったからである。本研究を計画した時点では、言語聴覚士の今村亜子氏に紹介された遅滞児数名を対象にする予定であった。そのため、この幼児達を対象とした動画ソフトを作成する計画を立てていた。しかし、臨床の現場からの要請を取り入れ、27年度は、検査手法及び評価方法の精度を高めることに計画を多少修正したため、上記の幼児達以外も被験者にする必要が生じた。その結果、検査文と提示の仕方を再吟味することとなり、使用する検査文によっては動画よりも実演の方が望ましいものがあるということも分かった。このように、動画で提示することが適している検査文を確定するまで、動画ソフトの開発を延長せざるをえなかったことが次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
26年度において、動画で提示することが望ましい検査文の確定作業は終了したので、27年度は、動画ソフトの開発に着手する。ソフト作成のために、2名ほど雇用する予定である。27年度内に、最低3回検査の実施を計画しており、その度に修正をする必要が生じるであろう。検査の実施は7月、9月、11月を予定しているので、雇用計画としては、それぞれの月と予備的な1か月の計6か月を考えている。
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Research Products
(3 results)