2015 Fiscal Year Research-status Report
言語・コミュニケーションにおける場の理論の発展~近代社会の問題解決を目指して
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26370461
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大塚 正之 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), その他(招聘研究員) (40554051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井出 祥子 日本女子大学, 文学部, 名誉教授 (60060662)
岡 智之 東京学芸大学, 留学センター, 教授 (90401447)
櫻井 千佳子 武蔵野大学, 工学部, 准教授 (30386502)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 場の言語学 / 場の理論 / 複雑系 / 相互作用 / 創発 / 場内在的 / 場外在的 / ba theory |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、場の言語・コミュニケーション研究会例会を合計8回開催し、新たな研究者の発表に基づき、場の言語との関係を検討した。 第14回例会(04.18)発表者 奥川育子先生 テーマ「物語談話における談話展開と視点」第15回例会(06.13)発表者 小森由里先生 テーマ「場の理論からみる他称詞の運用―親族の事例より―」第16回例会(09.08)(1) 大塚、岡 テーマ「場の観点から認知を捉える―主観的把握と客観的把握再考」(2)櫻井 テーマ「語りの「場」のコミュニケーションにみられる文化とは」。第17回例会(10.18)発表者 成岡恵子先生 テーマ「日英語の絵本における語り手の視点についての一考察」 第18回例会(11.15)発表者 多々良直弘先生 テーマ「スポーツ実況中継における言語行動の日英比較;実況中継により創られるフットボール・ストーリー」第19回例会(12.20)発表者 重光由加先生 テーマ「会話に対する意識とその会話への表出:日・英男性初対面の談話を分析して」第20回例会(01.30)発表者 平田真知子先生 テーマ「時を表す表現の日英比較:英語の過去形と助動詞「た」」第21回例会(02.27)早野薫先生 テーマ「会話分析のこれまでとこれから」会話分析は、自然会話データを分析することによってインタラクションの中で社会的な秩序がどのように保たれ、維持されているのかをミクロの視点で明らかにしようとする。 第16回のテーマ(1)については、認知言語学会において発表し、テーマ(2)については、異文化コミュニケーション学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、場の言語の視点から、多様な言語現象をどのように説明することができるのかに焦点を当てて、多くの観点から言語研究者を研究会例会に講師としてお招きし、研究内容をお伺いするとともに、その研究について、場の視点から議論、考察を全員で行った。 その結果、言語の日英比較を行うと、それぞれの母語話者が意識しているか否かにかかわらず、一定の特徴を有することが明らかになってきた。その大きな一つの特徴は、日本語は、場に内在的な表現が多用されるのに対し、英語では、場に内在的な表現があまりされないという違いである。これは、従来は、日本語は主観的に事態を把握するのに対し、英語は客観的に事態を把握するという形で理解されてきたものである。しかし、これは主観か客観かの問題ではなく、表現形式の問題であって、場というものを導入し、場内在的、場外在的という区分を用いれば、より的確にこの事態を表現することができることが明らかになってきた。 ここからはまだ実証されてはいないものの、言語類型論にも橋渡しをする契機が得られたと考えられる。また、本年度の研究は多岐にわたっているが、その中で、日英比較が多く取り上げられ、次第にその違いが明らかになってきたことが研究成果として確認することができる。このような言語表現の日英比較を行うことにより、日本語を母語とする者が英語を学習するに際し、どのような点に注意をする必要があるのか、また、反対に、英語ないし英語に近い言語を母語とする者が日本語を学習するに際して、どのような点に留意する必要があるのかについても、明らかにすることが可能であることが分かってきた。これを応用していけば、その違いを意識しながら意図的に言語学習が可能になることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、3年間の最終年となり、これまでの成果を一冊の書物として刊行するとともに、次の課題を明らかにしていく。すなわち、改めて、これらの言語現象の科学的解明のため、複雑系科学の視点に立ち戻り、場の言語学の科学的な基礎づけを行うこと、場の理論を日本人の英語習得、外国人の日本語習得に応用してこれを役立てること、場の理論の観点から言語類型論を探求すること、場における相互作用の中で言語が創発し自己組織されるプロセスとして言語を捉えることで、言語現象を説明することが可能であることを多くの場面で明らかにしていくことに取り組む。 場の理論は、二人の人間が個として独立している側面とほかの人とつながっている側面とを持っていて、このつながっている側面において、同期して、自己組織が生まれ、お互いが了解できる場面が生まれてくることが示されている。同様に言語表現では、個としての独自性をもって語りながら、しかし、その言語は、常にコードとして他者とつながりのあるものとして発せられる。言語は、この固有性と同期性という二つの側面を持っており、他者と同期することによってコミュニケーションがなりたつ。どのような場合に同期して自己組織が生まれるのか、その構造は非常に多様であり、その多様性を複雑系における自己組織の視点からさらに探求する。また、場の理論の観点からの言語の日英比較によって、日本語と英語との間には、場内在的言語と場外在的言語と表現できるような違いがあることが明らかになってきた。この点を更に深め、日本人の英語教育、外国人の日本語教育に役立つ学習方法を創り上げたい。 これらの課題は、非常に広範で、かつ、奥深いものであるため、いずれにしても今年度だけで成し遂げることができるものではなく、引き続き研究を続けることが必要である。
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Causes of Carryover |
昨年度は、予定していた学会出席を取りやめたこと、多様な分野の言語研究者を講師として招き、場の言語・コミュニケーション研究会の例会を開催することを重視したこと、その際、多くの研究者に対する謝礼の支払いをしないことで了解をいただいたこと、また、ハンクス先生が別の企画で来日され、招待する経費負担をしなくて済んだことなどが大きな要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、学会の出席のほか、研究成果を本にして出版することを予定しており、そのための経費に充てること、また、場の理論に関する論文や書籍を英訳して海外に出版することも企画しており、W.ハンクス先生が海外で場の言語学に関する書籍を出版されるのに呼応して、日本の場の理論を海外に発信する計画も前倒しに実施したいと考えており、その経費に充当したい。さらに今後も多様な分野の研究者に講演を依頼して、場の言語・コミュニケーション研究会の例会も充実させたいと考えており、そのための経費としても使用したいと考えている。
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Research Products
(2 results)