2015 Fiscal Year Research-status Report
文理解における情報・韻律構造の役割:言語間の普遍性と多様性の心理言語学的探求
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26370473
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小泉 有紀子 山形大学, 人文学部, 准教授 (40551536)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 心理言語学 / 韻律 / 語用論 / 英語学習者 / スペイン語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、人間の言語理解において、2通りの解釈が考えられる文を読んだり聞いたりした時に、その文がどのような文脈やイントネーションで発話されるか(情報・韻律構造)が果たす役割に注目している。否定と焦点の作用域関係の処理をとりあげ、2つの可能な解釈がそれぞれ持つ異なる情報・韻律構造が処理プロセスにおいてどのような役割を果たすのかについてより詳細な答えを求めることを目的としている。当該年度は、前年度に引き続き第二言語学習者を対象とした研究、とくにこの構文の処理に関連すると思われる文の韻律情報の利用可能性について探求した途中経過を発表したほか、スペイン語におけるこの構文の処理に関する実験の構築に向けた準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年の計画とした項目について、概ね順調に研究を進めたが、やや遅れている部分もある。 1.英語学習者の発話産出実験の続き:前年度発表した、英語学習者のこの構文の処理実験(読み時間測定調査)の結果を踏まえ、引き続き研究を進めた。日本人学習者の読み実験データには英語母語話者に観察される、文を If 節に埋め込んだ場合の中和効果が見られなかったが、これは、日本人学習者の場合、文レベルのイントネーションに関する情報が利用できていないからではないかという仮説に基づき、実際の文の読み上げ産出データの分析を行い、訓練された英語母語話者に知覚された韻律特性の分析結果を発表した。より詳細な韻律特性の分析(2節間の韻律境界の有無や発話の末のピッチ)については、研究協力者とのスケジュール調整などの関係もあり28年度に持ち越すこととなった。 2.スペイン語の文処理実験の構築とデータ収集の推進:関係代名詞節の処理において、スペイン語では英語と異なる文処理傾向があることが報告されて以来、人間の文処理メカニズムの普遍性を探求する上で両言語のこの違いについて様々な研究が行われてきた。本研究課題でもこの言語を取り上げる理由となった特に興味深い点は、because節内の動詞が直接法か間接法かで文の曖昧性が解消されることである。27年度は、研究代表者が長期での海外出張を行うことが可能であったので、科研費を使用して海外の研究協力者との打ち合わせ、実験計画の策定や刺激文の準備、スペイン語母語話者への聞き取り調査を通じてのパイロットデータの収集など多くの成果を得ることができた。28年度のデータ収集に向けての準備は順調に進んでいる。 3.日本語のオンライン処理の検証:この項目については、代表者の海外出張等により、スペイン語における研究の推進に大きな時間と費用を使用したため、作業が遅れている。今後鋭意推進していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年となる今年度は、これまでに得られた研究成果を発表するほか、スペイン語における研究の推進が前半の中心となる。後半は、未だ達成できていないデータ収集や考察などを補充する。また、3年間の活動を振り返り、問題点を精査し、来年度以降の研究活動の目標をより具体的にするよう努める。 1.スペイン語の文処理研究の継続:27年度に準備したスペイン語の実験を行い、母語話者データを収集・分析する。スペインの研究協力者のもとで、まずはこの構文の処理の一般的な選好傾向を調べ(文完成課題)、その後、発話産出実験を行ってスペイン語の韻律特性に基づくとこの構文の2つの解釈には違いがあるのか、またそれはどのような違いかを検証する。これまでの母語話者への聞き取り調査に基づくと、英語と似た違いがあると思われるが、スペイン語においてはこのような作用域の相互関係の処理に関する実証研究は未だ報告されていないと見られ、得られる結果は意義深いものとなると予想される。関係代名詞の解釈傾向はスペイン語と英語で異なるにもかかわらず、この構文の処理において英語と同じ振る舞いが観察されれば、文理解の普遍的なメカニズムの探求というより大きな問題の考察においても重要な貢献が可能であるだろう。今年度前期は、研究代表者がスペインへの長期出張が可能であり、現地での協力者との連携もスムーズに行えるため、データ収集も順調に推進できることが予想される。 2.成果発表、3年間の振り返り、翌年度以降に向けての計画策定:前年度までに得られた成果の発表を引き続き行う。データの分析に遅れが出ている英語母語話者ならびに学習者の発話のより詳細な韻律分析を推進する。また、年度の後半は、3年間の研究活動を振り返り、遅れている部分(特に日本語の実験構築)についても取り組んでいきたい。
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Research Products
(5 results)