2015 Fiscal Year Research-status Report
知的障害児・者の音楽的活動の場に見る発話の音楽性と対話活性化の関係
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26370484
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
有働 眞理子 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (40183751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高野 美由紀 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70295666)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 知的障害児・者 / 対話活性化 / 対話行動 / 音楽性 / ストーリテリング / 身体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、知的障害児・者の対話環境向上に向けて、言語学・発達科学・教育実践学の学際的な観点から、発話の音声的側面の音楽性と、発話時の身体運動(身振り・ジェスチャー)が、どのように対話促進に貢献するものであるかを観察・分析し、具体的支援方法の検討や提案につなげることを目的としている。観察場面を、音楽が関わる特別支援教育の現場や余暇活動に求め、実践の映像記録を採取し、知的障害児・者と教師・養育者・支援担当者の間で、身体性の高い対話行動がどのように展開されていくのかについて、質的・談話分析的に考察する。さらにそのような分析・考察の中から支援の手がかりを得て、対話促進のための教材作成や方法開発に具体化することを目的とする。 初年度は、過年度に自作した歯磨きDVD教材を基にオノマトペ表現の有用性を観察し、さらにマルチセンソリーという特性に着目し、IASSIDDウイーン大会において、BagBookという教材と実践手法を取り入れた、日本の題材・素材に基づく教材を提案した。そこで得られた意見交換がきっかけとなり、英国のストーリーテリングの専門家Nicola Grove氏との協働を本研究につなげることができたので、平成27年度は、マルチセンソリー的要素とストーリーテリングの関係、特に音楽の関わりについて、実験的なセッションを、余暇活動及び学校教育(特別支援学校、小学校外国語活動、中学校特別支援学級)の授業において実施することにした。この談話環境のデザインにおいては、表現方法は様々に異なっていても、「物語性」が音楽性の高い身体的言語表現に組み合わさることで対話が飛躍的に活性化されるのではないか、という仮説を検証し、事象を観察するためであった。実践を年度始めと年度末の2回に分けて、同じ場所で実践を実施できたことで、新規性の高い対話環境の様子を詳細に観察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「物語性」を授業・余暇活動実践に実際に組み込み、その有効性について観察・考察するために、対話的ストーリーテリングのセッション(特別支援学校3回、小学校外国語活動2回、中学校特別支援学級2回、音遊びの会ワークショップ実践1回、計8回の実践)を実施した。また、特別支援関係者(特別支援学校・学級教員、スピーチセラピスト、看護師、保育士、小学校・中学校教師)に、日本ではまだ認知度が低いストーリーテリングの教育的有用性について啓蒙し、情報・意見交換をするために、Nicola Grove氏の他に、言語療法専門家Victoria Joffe氏(ロンドン市立大学副学長)もお招きして、5月と11月に計3回のセミナーを実施した。学校訪問時の観察結果については、平成27年9月の第53回特殊教育学会大会において、自主シンポジウムを開催し、言語、教育、医療等の異なる視点から、実験的セッションで得られた知的障害児・者の対話性向上の成果について議論を行った。 英国の活動実施状況を学びながら教育的社会貢献に資する研究活動企画を調整し、年間を通して具体的に推進したこと、また、今後の研究を継続しながら、対話促進のための実践教則本、ならびに日本の教育事情に適応させたストーリーテリング活用型の教育介入プログラムの企画を立ち上げられたことは、本研究の成果還元に関しては、予想を遥かに越える大きな成果が得られたと考えている。 ただ、個別の対話活性化場面の談話分析や認知科学的考察を進め、学術的背景を整備することに関しては、議論の出発点としてのデータ収集と現象の質的観察を行った段階にとどまり、より詳細な分析が課題として残った。「音楽的な言語」や「言語の中の音楽」と「語り」の相互作用について解明することが、重要な課題の一つとして次年度に継承される。 課題が残るものの、総合的に、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、プロジェクトの最終年度として、前年度末に課題となった、学術的成果獲得の強化を、年度前半の最優先課題として努力する。第27回日本発達心理学会(JSDP)大会におけるラウンドテーブル開催(発表メンバーは、研究代表者有働眞理子、研究分担者高野美由紀、連携研究者沼田里衣、研究協力者梅谷浩子)、4年に一度のIASSIDD国際会議(2016 IASSIDD World Congress, Melbourne, Australia)での口頭発表(有働眞理子、高野美由紀)を予定している(JSDPについては5月初旬に実施済み)。 JSDPのラウンドテーブルにおいては、音楽的感性に基づいた対話行動と「物語性」のある語りの関係について、言語学(主に語用論)、音楽社会学、音楽療法実践からの異なる観察、対話行動の見え方を発表し、議論を行う。IASSIDDにおいては、平成27年度に実施した『かぐや姫』の知的障害者への語りと、音楽的行為を介した対話の往還という珍しい談話現象の分析を行う。ここで求めるのは、言語表出と音楽的行為が発話行為を共有しうることの言語(談話)分析である。知的障害児・者との対話においては、言語発話の言語形式と発話行為の力を軸・核としつつも、対話理解の形式を、マルチモーダルな対話表出・表現行為に拡大させることで、知的障害者との対話共有・交流が成立する現象を説明できるのではないかと考え、その仮説に基づいて、採取したデータの分析を行い、発表や論文作成を行う。 また、前年度に招聘した、英国のストーリーテラーNicola Grove 氏とのワークショップ・学校訪問・音遊び音楽活動等で得られた知見と経験を参考にしつつ、マルチセンソリーストーリーテリングの理論と枠組みに基づき、これまで蓄積した素材である『かぐや姫』や『はみがきソング』を教材にして、対話活動を実践できるための教則本とプログラム開発を行う。
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Causes of Carryover |
プロジェクトの最終年度であり、成果発表(国際学会を含んで、複数の学会発表を予定)及び成果の社会還元(国際共同研究協力体制を活用した、対話教育促進のための教則本等教材作成や、著作に向けた準備)のための経費が必要であるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本発達心理学会、日本特殊教育学会、国際知的障害科学会(IASSIDD)の大会における成果発表出張旅費、そのために必要な共同研究発表者への謝金、教材作成のための専門家支援のための謝金、教材試作品制作費用、著書の準備となる研究成果のまとめのための冊子作成などを予定しています。
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Remarks |
(註)正式なプロジェクトのタイトルは、HEROES WITH A DIFFERENCE: DISABILITY LEGENDS FROM JAPAN & UK SCHOOL PARTNERSHIP PROJECT、THE GREAT BRITAIN SASAKAWA FOUNDATIONの支援による研究である。
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Research Products
(7 results)