2014 Fiscal Year Research-status Report
自然災害発生時の避難勧告・指示文の分類と言語学的分析
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26370490
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Research Institution | The University of Aizu |
Principal Investigator |
小笠原 奈保美 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (50630696)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HEO Younghyon 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (10631476)
GINSBURG Jason 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (80571778)
D.B Anna 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (90631474)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 津波避難伝達文 / 言語分析 / 災害コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
自治体発行の自然災害防災マニュアルの中から、避難伝達文をデータとして取得した。データは、災害の種類と緊急性の度合い(避難準備・避難勧告・避難指示)によって分類し、それぞれについて言語学的分析を行う。これまで、津波避難伝達文は38の自治体から取得し、水害・土砂災害の避難伝達文は56の自治体から取得した。集めたデータを一般公開し、各自治体の防災担当者や一般の方に参考にしていただくため、ウェブサイトを作成中である。目下、データを取得した自治体に電子メールを送り、ウェブ掲載の承諾を得ているところである。
津波避難伝達文の分析は、言語量(文と文節の数)、構文の複雑さ(単文・重文・複文・受動態・名詞修飾節)、含まれる情報(発信元・受信者・津波到達時刻・避難所・注意報や警報の区別・堤防決壊などの危険性・火元を消すなどの避難行動)に基づいて分析を行った。調査の結果、以下の点が明らかになった。1)避難準備文に比べて避難勧告文や避難指示文では、言語量が多くなり、統語的な複雑さが増す傾向にある。2)「避難準備・勧告・指示」という言葉を使わず、「津波注意報・(大)津波警報」という言葉しか使わない自治体が多い。3)聞き手に期待する避難行動を、ほとんどの場合「してください」という依頼文で表現する自治体が多く、「せよ」や「指示する」などの命令文で表現する自治体が少ない。4)避難勧告文と避難指示文でほとんど同一の文言が使われている。 これらの結果をふまえて、冗長な表現の削除、複文・重文から単文への切り替え、迅速な避難を促すよう命令文の採用、避難地域・避難所を特定する表現の使用などの提言を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
津波避難伝達文と水害・土砂災害避難伝達文ともに、インターネットを利用して一定数のデータが取得でき、分析を行う事ができる。その他の自然災害(火山噴火・台風・大雪など)の防災マニュアルについては、インターネット上で公開しているものが少なく、あったとしても避難伝達文を掲載しているものはほとんどなかった。
津波伝達文については言語分析が終了しており、結果を論文形式にまとめ、International Conference on Information and Communication Technologies for Disaster Management学会紀要に投稿した。採用されれば、口頭と論文両方で発表する機会が与えられる。土砂災害避難伝達文についても津波伝達文と同様の方法で言語分析を行っているところである。こちらも論文または学会で結果を発表できるよう準備中である。
交付申請書には記載がないが、取得したデータを自治体の防災担当者や一般の方に公開できるようウェブサイトを作成中である。自治体の防災担当者や一般の方は、他の自治体で使用されている避難伝達文を目にする機会がほとんどないので、データを広く公開することで情報を共有し、伝達文に関する知識を深めてもらうのが狙いである。現在、ウェブサイトは津波と土砂災害のページに分けて、都道府県名がついた日本地図上で自治体名を選択すると、伝達文が表示されるようになっている。準備が出来次第、一般公開する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、津波伝達文を用いて、伝達文の中に含まれる文言や避難情報、伝達文をアナウンスする際の音響特性(発話者の性別、声のピッチ、発話速度)の違いが聞き手の緊急性認識にどう影響するかを調査する。伝達文の最適な文言と避難情報を探るために、民間調査会社を使い1,000人規模のウェブアンケートを行う予定である。また、最適な音響特性を調べるために、50人程度の被験者を募り、個別に音声知覚実験を行う。音声知覚実験は、EPrimeという心理学実験作成ソフトウェアを購入し、これを用いて作成する。被験者には、一人1,000円の謝金を支払う。
また、データ一般公開のためのウェブサイト作成に伴って、共同研究者のギンズバーグ教授が管理するためのワークステーションが必要である。今年度も引き続きデータ収集を行い、集めたデータはギンズバーグ教授と学生アシスタントのもとに送られ、双方が共同してウェブサイトの内容を充実させる。
データ分析、アンケート、音声知覚実験で得られた結果は、共同研究者とともに国際学会で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度繰越額は、端数を切り捨てると10,000円なので、概ね当初予定額に達した。平成26年度予算からの繰り越しが発生した理由は、防音室の価格が見積り額より少なかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、繰り越し分1万円と合わせて、1,210,000円を使用する計画である。内訳は、研究代表者に610,000円、研究分担者3名に合計600,000円である。研究代表者の予算で学生アシスタント4名の1年分の謝金を支払い、音声知覚実験作成用のソフトウェアを購入する。研究分担者の予算は、学会出席のための旅費またはデータ保管やウェブサイトのサーバーとしてコンピュータを購入するのに充てられる。
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