2015 Fiscal Year Research-status Report
院政期の和漢混淆文の研究 -『愚管抄』を中心に -
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26370552
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
アルベリッツィ V.L. 早稲田大学, グローバルエデュケーションセンター, 准教授 (60630910)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 和漢混淆文 / 漢文訓読 / 日本語史 / 愚管抄 / デジタル教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は下記の三点を中心に行った。 (1)『愚管抄』の諸本の調査:前年度の調査では閲覧できなかった『愚管抄』の伝本および関連資料の実地調査を引き続き行い,改めて,宮内庁書陵部蔵文明本『愚管抄』を本研究の対象資料とすべきであるという知見を得ることができた。 (2)宮内庁書陵部蔵文明本『愚管抄』の日本語学的な調査:覚一本と延慶本『平家物語』を中心とした和漢混淆文の語彙の再調査に基づき,特定できた「和」「漢」異系統同義語141語の 『愚管抄』における分布を調査し,『愚管抄』における「和」「漢」の相互特徴を明らかにすることを目指した。その結果,『愚管抄』における語彙の選択は特徴的であることを確認することができた。それが先行研究によって指摘されているように,慈円の口述筆記という方法によるものであるかを特定するには,更なる細密な調査が必要であることが判明した。和漢混淆文の究明に当たっての困難は,異系統の特徴の共存にあるのみならず,その偶発性と必然性のあいだの度合いにもあることが再確認された。 (3)デジタルテキストによる翻刻:前年度に開始したタブレット端末で閲覧できるデジタルテキストによる写本のインタラクティブな翻刻の作成および読み手により豊富な情報を与える方法の検討をさらに推進し,タブレット型端末の複数のディスプレイのサイズで実験を行い,ほぼ完成した。特に,写本の画像にスクロールするだけで翻刻のテキストが浮かび上がるシステムおよび画像の特定の箇所にタップすると補足的な情報が表示される仕組みの開発に力を注いだ。その結果は,2016年の5月に公開する予定であるiTunes Uのコースにまとめられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『愚管抄』における語彙の特徴を特定し,その採用が単なる「併用」なのか,あるいは真の意味での「混淆」であるのかを認定するために,さらなる調査の必要が発生したものの,デジタルテキストによって翻刻などの研究成果を配信する基盤を完成することができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
一番多くの成果があげられると予測される「語彙」の一面に的を絞り,調査をより深く精密に推し進める予定である。具体的に,テクストの展開の様相とその社会的・歴史的要因を背景に,宮内庁書陵部蔵文明本『愚管抄』における語彙の調査を通して,和化した漢文によって思索していた中世初頭の貴族が,仮名交じり文で口述し,それをそのまま筆記させたという事実を裏付けられるかという問題を中心に研究を継続する予定である。
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