2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370571
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Research Institution | Seitoku University |
Principal Investigator |
藤原 保明 聖徳大学, 文学部, 教授 (30040067)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | there構文 / 虚辞のthere / 存在文 / thereの指示機能 / トロイラスとクリセイダ / マンデヴィル旅行記 / ウィクリフ派訳聖書 / 脈絡 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、1385年頃のチョーサーの『トロイラスとクリセイダ』で用いられている187例のthereのすべてについて、場所を指示する機能がある例とない例に区分し、後者についてはさらに詳細な下位区分を行った。その上で、『トロイラス』よりも10年ほど新しい1395年頃の『ウィクリフ派訳聖書』の「創世記」で用いられている58例のthereと、1450年頃のボドレー版の『マンデヴィル旅行記』の194例のthereについて、場所の指示機能の有無を分析した。その結果、興味深いことに、「創世記」と『旅行記』のthereには虚辞と断定できる例は皆無であったが、これらの文献より時代が古い『トロイラス』には虚辞のthereはかなり多く確認できた。 そこで、場所の副詞から虚辞へというthereの史的発達に明らかに矛盾する『トロイラス』のthereの生起例の言語学的意義について考察した。その結果、散文の「創世記」と『旅行記』には虚辞と断定できるthereは皆無であるのに対して、韻文の『トロイラス』には虚辞のthereが多く用いられていることから、この種のthereの用法を精査した。その結果、『トロイラス』の虚辞のthereは詩のリズム、とりわけ弱音部に多く用いられていることが判明した。その他、この作品では祈願文の導入部にもthereが用いられていることから、虚辞のthereの起源は韻文にある可能性が強い。 現代英語のthere+動詞+主語という鋳型に合致するthereはたいてい虚辞とみなせるが、古英語や中英語のこの種のthereには先行の場所を指示する機能があることから、文という枠を超えた脈絡の中でthereの機能を確定する作業は不可欠となる。今回の研究結果は、文を中心とする従来の英語の史的統語研究の不備を指摘し、脈絡を重視した分析の重要性と成果を具体的に提示した意義は高く評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究実施計画では、古英語の韻文と散文におけるthereの機能を主に分析する予定であったが、チョーサーを中心とする論文集への執筆依頼と日本中世英語英文学会からの研究発表の慫慂に応じるため、古英語の場合より分析の進捗がかなり早くなることが見込まれる中英語の散文と韻文を中心に分析することに方針を転換した。幸いなことに、散文における虚辞のthereの機能が確立するのは1400年頃以降であるという分析結果が得られ、それゆえ、それよりも300年以上もさかのぼる古英語期では、thereの虚辞としての用法は未発達の可能性が高いとみなせることから、今後の研究の対象を1400年以降のthereの文法上の機能に絞ることができ、現代英語に見られるようなthere構文の成立の時期を予定より早く特定できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究によって、there存在文は1450年から1535年の間に急速に発達したことが明らかとなったことから、この85年の間のいつ頃かを特定する作業がすべてに優先すると判断される。その方が学術的に有意義な結果が得られそうである。それゆえ、2年目に当たる平成27年度は、この時期の文献、とりわけ『パストン家文書』のthereを中心に分析と考察を行う。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍の刊行が遅れ、年度内に入手できなくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該書籍の刊行予定を勘案しながら、次年度の書籍代を調整する。
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