2015 Fiscal Year Research-status Report
伝世・出土文献所見の系譜関係資料による先秦家族史の再構築
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26370819
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小寺 敦 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (30431828)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 血縁集団 / 春秋戦国 / 清華簡 / 繋年 / 春秋 / 文献 / 秩序化 / 系譜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、3年計画の本研究の第2年度として、前年度に引き続き系譜関係資料の蓄積に努めた。その一方で、恒生管理學院(香港)の張光裕教授らのお招きを受け、シンポジウム「中國古代泉幣與經貿國際學術研討會曁中國語言文化研習所成立三周年慶典」において研究報告「先秦時代的交換婚:與貨幣史的展開相對照」を行った。婚姻関係資料は系譜資料の重要な部分を構成し、婚姻は「貨幣」「交換」と関連づけて説明されることがある。それについての研究史を辿りつつ、特に伝世文献の『左伝』における交換婚記事について再検討するとともに、そのテクスト中における描かれ方を論じた。そして文献の記載内容を資料として取り出すことから生じる、「先秦文献の陥穽」とも言うべき一種のテクストの歪みから離れ、過去の研究が法則性を求めた点について再評価を行った。また「清華簡『繋年』第十五章の「少◆(上部が孔、下部が皿の字)」について」(出土資料と漢字文化研究會編『出土文獻と秦楚文化』9、2016年3月)では、先秦時代の希少な出土文献年代記である清華簡『繋年』において、『左伝』『国語』など伝世文献にも見える夏姫説話を扱った。伝世文献における夏姫なる女性はかなり積極的な役割を演じるが、『繋年』では単なる登場人物に過ぎない。婚姻関係の事実を重視する伝世文献と比較して、この女性の描かれ方が『繋年』の特徴になっているのではないかと考えた。 そして8月には吉林大学の呉良宝教授らのお招きにより、シンポジウム「“出土文献与学術新知”学術研討会曁出土文献青年学者論壇」に参加させていただき、新出土資料に関する討議に加わった。9月には、他の科研費による調査・訪問を利用し、復旦大学・上海博物館等へ出向いた。国内では8月に長野県における中国古代史の研究合宿に参加し、当該分野の諸問題につき、専門領域を超えた議論を行い、また上記出張いずれでも資料調査・収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともと第2年度においては、伝世文献については『左伝』『詩』『書』以外の伝世文献の系譜関係資料を検討する予定であったが、シンポジウム報告の準備に軸足を移したため、その基礎作業は継続しているものの成果報告は後回しになった。しかし、この軌道修正によって、系譜関係資料に関する過去の研究の見直しや、出土文献における系譜資料に関する新たな視点を提示することが可能となり、研究計画にもあるような先秦系譜資料に関する研究の地平を切り開く契機とすることができたと考えている。 また、出土文献である清華簡『繋年』については、全て23章中4章分については前年度において既に基礎的な報告を行ったが、本年度における研究成果を出すための、その詳細な検討作業を進める中に、本資料が本研究のテーマにおいて決定的な意義を有すると判断した。そこで、もともと訳注作成作業を予定していた第5章以降のみならず、それより以前の章についても、本資料の文献としての性格やそれから見出すことのできる論点について、新たに検討し直すこととした。 国内調査については、東京近辺のみならず、各地の博物館・美術館の資料を実見することができた。国外調査は上海のほか、湖北省の最新出土資料を実見でき、また中国大陸・香港において、関連分野の様々な国籍をもつ研究者と研究交流を活発に行うなど、予想以上の成果が得られた。 以上より、全体としては当初の予定通りに進んだものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目は最終年度であり、基本的には当初の予定である系譜関係資料の総合的検討を行いつつ、2年目までになされた新たな研究展開も踏まえた形で計画を進めていくことにしたい。 そのことに関連して、本研究における基礎作業としての、清華簡『繋年』の内容解読およびその資料的性格の検討については、3年目に発表することを計画している。 また本年度内に中国大陸滞在の機会を与えていただくことが決まっており、それを利用して本研究に関連する資料収集や研究交流に努めることになる。 上記方策に合わせて、楚地域という、東部ユーラシアの漢字文化圏における中原=中心から外れた一地域において、清華簡『繋年』のような系譜資料を含む年代記が編纂されたことがもつ歴史的意義についても考えていきたい。このことは、本研究の目的である、従来の中原中心的・『史記』史観的な家族史の枠組みを組み替えることにもなろう。
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Research Products
(3 results)