2014 Fiscal Year Research-status Report
フランス植民地史研究と歴史認識-サハラ以南アフリカを手がかりに
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26370874
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
平野 千果子 武蔵大学, 人文学部, 教授 (00319419)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 歴史認識 / フランス植民地 / サハラ以南アフリカ / 植民地史 / 帝国史 / 「黒人」認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、植民地支配の過去をめぐるフランスの歴史認識のあり方に注目し、その背景を歴史的に探究することで、近年盛んになっている植民地・帝国史研究に比較の視座を提供することをおもな目的としている。とりわけ親仏的傾向の強かったサハラ以南アフリカに焦点を当てることで、通常考えられている植民地像とは異なる側面を考察するのが狙いである。 そうした大きな目的のなかで、平成26年度は、第一次世界大戦から戦間期にかけてのサハラ以南アフリカの歴史を、フランスとのかかわりにおいて整理することを第一の作業としていた。ちょうど一年間の研究休暇を得ていたので、5月にはフランスに短期渡航して史料館でこのテーマに関する最終確認をし、ほぼ半年をかけて単著『アフリカを活用する――フランス植民地からみた第一次世界大戦』を脱稿した(人文書院から10月に刊行)。これは大きな成果の一つである。平成26年は大戦の開戦100周年にあたっており、このテーマをめぐって数多の書物が刊行されたが、本書はそれらとは異なる視点からこの戦争を捉えたもので、新しい視座を提供したと考えている。 その他、共著が2点刊行の運びとなった。なかでもコモンウェルスをめぐる共同研究の成果として、フランス版コモンウェルスといえる「フランコフォニー(フランス語圏の意)」に関する論文を完成させることができた。この組織は、親仏的なフランス領アフリカのエリートたちが熱心に推進したものであり、本研究をこれから進展させるうえで、やはり基本となる論点である。 以上に加えて、10月からフランスに滞在した際に、史料館や国立図書館で関連資料の収集・整理を行った。またサハラ以南アフリカとエリートの心性が類似しているフランス領カリブ海に出張し、現地社会を観察すると同時に当地の歴史家に面会したことも重要な成果だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の成果は大きく3点にまとめられる。第一に複数の書物の公刊があるが、ここではとくに単著『アフリカを活用する』に言及したい。本書は第一次世界大戦を、フランス領アフリカ植民地を通して再考したものである。この大戦は通常、歴史の大きな転換点と位置づけられているが、そうした通説に対して本書では、フランス植民地、とりわけ戦場となったアフリカを視野に入れるなら、むしろ帝国主義の時代から継続する側面が濃厚である点を強調した。本書では、大戦期におけるアフリカ兵の徴募の実態を検討したのに加え、アフリカに関する複数の書物を素材に、フランス人の対植民地意識を読み取った。同時に、大戦後の世界においてサハラ以南アフリカが本国に「活用」されていく状況を、車会社シトロエンのサハラ砂漠やアフリカ大陸縦断事業を軸に論じた。こうした社会・文化史的アプローチにより、むしろ今日の「歴史認識」につながる側面を浮き彫りにすると同時に、大戦の前後に連続するものを提示したつもりである。小著とはいえ、従来とは異なる第一次世界大戦観を提供し、学界に一石を投じるものとなったと考えている。 第二の成果として、フランス領カリブ海地域への出張がある。この地では植民地時代からエリート層を中心に親仏的傾向が強く、フランスと同等の権利を求めた歴史があり、サハラ以南アフリカの状況に近い。しかも第二次世界大戦後にはフランスの「海外県」という位置づけになり、今日でもフランス領であり続けている。サハラ以南アフリカの事例の特徴をつかむためにも、この地域の探究を同時並行的に進めることは、当初からの目的だった。ヨーロッパ、とりわけフランスにおける「黒人」認識という、本研究でこれから手がけるべき課題に取り組むことを考えても、当地を実際に訪れたのはきわめて有益であった。最後に第三の成果として、文書館での史料調査が順調に進んだことを記すしだいである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、第一次世界大戦から戦間期にかけてのサハラ以南アフリカについて、一応のまとめを公表することができたので、平成27年度は次の段階として、フランス/ヨーロッパにおける「黒人」認識を視野に研究を進めたい。黒人という存在をヨーロッパの人びとがどのように捉えていたかは、今日の植民地支配をめぐる歴史認識の、一つの大きな基礎となっていると考えられるからである。 ヨーロッパにおける黒人という問題をめぐっては、すでにいくつか研究も出されているが、それらは「黒人」を単一の存在とみなす傾向がある。他方、カリブ海に目を向けるなら、この地の住民も肌の黒い人びとだが、彼らの間ではアフリカの黒人は自分たちと異なる存在だとする認識が濃厚である。近年、白人自体が構築された存在だとして、「白人性」をめぐる議論が進んでいるが、対置される「黒人」にしても決して単一の存在ではなく、自他意識を含めて重層的に構築されていることがわかる。 したがって平成27年度は、このカリブ海植民地についての探究を深めたい。この地に関しては、ハイチの独立などフランス革命期の転変や奴隷制廃止(1848年)、あるいは海外県への「昇格」(1946年)という鍵となる事件を除くと、通史的な整理も十分にあるとは言えない。アフリカの事情と突き合わせるためにも、そもそもの奴隷制廃止をめぐる状況から、アフリカ植民地を素材にあつかった第一次世界大戦前後の時期までの基本的な整理が、第一の段階として必要だと考えている。 また本研究の最終年度に、アフリカの事情と合わせた総合的な考察を可能にするために、平成27年度には可能であれば、アフリカ最重要の植民地だったセネガルに出張したいと考えている。奴隷制の歴史においても主要な舞台となったこの地の訪問を通して、奴隷が送られた先であるカリブ海とは別の側面が観察されるはずである。
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Causes of Carryover |
本研究費では、平成27年1月から2月にかけてフランスに滞在し、文書館での史料収集や図書館での文献整理にあたったのだが、平成26年度は研究休暇を得ていたために、本研究費による滞在に先立って、秋からフランスに居を定めており、その間にすでに史料収集や文献整理に多くの時間を費やしていた。本研究費でも継続してその作業を進めたが、平成26年度の作業としては、1月ほどで十分に成果が上がったことから、1月末から2月初めにかけてカリブ海に出張したのを機に、本研究費による平成26年度の研究は、一応の区切りとした。この出張に際しては、パリ発の航空券を通常より安く購入することができた上に、滞在期間をやや短めに設定したため、結果として次年度繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には、史料調査を継続するために、最低一度、可能であれば二度(夏と冬)にフランスへの出張を計画している。フランス植民地時代のサハラ以南アフリカをめぐっては、第一次世界大戦、さらにはフランコフォニーという組織を素材に、平成26年度に単著や論文集として刊行することができたので、次の段階に研究を進めるため、改めてフランスの外交史料館や国立海外史料館での史料収集を行いたい。また昨今のフランスにおける研究の急速な進展にかんがみ、国立図書館での文献整理も継続して行う必要がある。さらに事情が許せば、西アフリカのセネガルへの出張を実現させたい。セネガルは、フランス領サハラ以南アフリカで最も支配の歴史が長いこともあって、この地域で最重要の植民地であった。首都のダカールの文書館に赴くことができれば、より好ましい成果が得られると考えている。
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Research Products
(4 results)