2014 Fiscal Year Research-status Report
地域社会における格差・不平等生成過程の解明-様々な差異を孕む社会空間に着目して-
Project/Area Number |
26370923
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 差異 / 格差・不平等 / 社会空間 / 地域社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主たる目的は,地域社会において格差や不平等,差別や排除が生じる仕組みを明らかにすることである。そのさい,格差や不平等を生み出す様々な差異軸(例えば,出自,学歴,職業,年齢,障がい,居住年,ジェンダー,エスニシティなど)を交差させ,対象地域における社会・経済・政治的背景を時間幅を長く取って把握する。対象地域の「過去」を掘り起こすこうした作業は,現在そして今後の地域社会における差別・不平等問題を解く鍵となると考えるからである。 上述の研究目的の遂行にあたり,本研究では以下の2つの研究対象を設定した。1つめに,旧産炭地域を対象に,炭鉱社会を構成した資本家と労働者の間の権力関係がどのように生み出され,それが地域社会の中でどのように維持されてきたかを明らかにする。2つめは,終戦後に現れた米軍基地周辺の遊興街という空間において,どのような行為主体による空間の実践があったかを参考に,当時の地域社会の中で生じた差別や抑圧を明らかにする。 前者の観点からの調査地域として,旧産炭地域の北海道夕張市と三笠市を選定した。26年度は,これら調査地域の市史や文献を手がかりに,炭鉱社会の発展から衰退までの時間軸に沿って,炭鉱資本と労働者の関係を組合活動を中心に整理した。また,地域社会を形成する主体として,労働者(家族を含む)間の繋がりがどのようなものだったかを,刊行された手記などをつうじて把握した。 後者の観点での調査地域には,沖縄県沖縄市を選定した。沖縄県立公文書館および沖縄市役所総務課での資料収集をはじめ,沖縄市内で現地観察を行った。同市では現在,自治体や民間資本による都市再開発が進んでいるが,インナーシティの一部では事業が着手されていない地区もあり,これは旧遊興街(戦後の沖縄では,米兵が遊興を楽しんだ特飲街)にあたる。現地での調査から,同市の変遷を住宅地図で押さえる作業を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,26年度は旧産炭地域の北海道夕張市や三笠市で文献資料(例えば,過去の新聞記事,労働組合関係資料,労働者の手記など)を収集する予定であった。しかし,夏以降~春先にかけて北海道は天候不順で,調査の予定を調整するのが難しかったため,27年度に予定していた沖縄県沖縄市での調査を実施した。 23年度~25年度に採択された科研研究では,共同研究の調査地の一つに夕張市を選定しており,同市の財政破綻が地域経済に与えた影響を把握するとともに,住民の生活に与えた影響を現地でのアンケート調査から明らかにした。この調査のさい,炭鉱時代の当該地域における労働者(家族を含む)間の繋がりを知ることのできる資料なども収集していたことから,前年度までの科研研究の成果もまじえて,国際地理学会議(IGU)の「ジェンダーと地理学」コミッションが8月に主催したプレカンファレンス(於:ワルシャワ大学)で報告した。 研究調査の予定を変えたものの,沖縄市での調査では文献資料収集の成果があったうえ,今後は同市役所総務課市史編集担当室の協力を得られることになった。夕張市や三笠市の市史や文献,刊行された手記などをもとに,地域社会における資本家と労働者との関係についての整理も進んだことから,26年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
27年度は,旧産炭地域の北海道夕張市および三笠市で,資料収集等を実施する。夕張市については,私設の夕張地域史研究資料調査室があり,資料の閲覧や研究への協力を依頼する。また,沖縄市での資料収集や,戦後の遊興街における店舗経営者や当時の住民への聞き取り調査を実施できるよう,同市役所資料編集担当との打ち合わせを行う。加えて,国立国会図書館等での資料収集も実施する。 28年度は,26・27年度調査の補足を行うとともに,3年間の研究のまとめとして,地域社会において格差や不平等,差別や排除が生じる仕組みを解明していくための考察を行う。研究成果の一端は,地理学関連の学会で発表または論文投稿する予定である。
|