2014 Fiscal Year Research-status Report
慣習文化と宗教のダイナミクス-ラ・ガリゴ叙事詩の世界遺産化と地域文化の創造
Project/Area Number |
26370954
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 眞 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (60183175)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 / インドネシア / スラウェシ / 慣習文化 / 宗教 / 芸能・芸術 / 『ラ・ガリゴ』叙事詩 / 世界記憶遺産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2014年8月31-9月13日(14日間)、及び2015年3月25日~4月1日(8日間)、インドネシア南スラウェシ州マカッサル及びその周辺部において資料収集及び聞き取り調査を実施した。南スラウェシ州観光局、「伝統的価値と地方史編纂所」、ラ・ガリゴ博物館において、南スラウェシ州政府の文化政策と伝統行事に関するパンフレット類、ラガリゴ叙事詩の世界遺産化とそれに関連する新聞記事、博物館における『ラ・ガリゴ』叙事詩関連の展示情報などについて資料収集した。 聞き取り調査としては、『ラ・ガリゴ』叙事詩の世界記憶遺産の申請に直接関わった人物から申請の経緯、意図等について話しを聞くとともに、比較的若い世代による文学芸術活動、ロンタラ文書やブギス・マカッサルの民族誌の翻訳出版に精力的に取り組む出版業を営む人物からも聞き取り調査を行った。 また海外研究協力者であるハサヌッディン大学文学部ヌルハヤティ教授及びディアス上級講師からは、『ラ・ガリゴ』叙事詩及びロンタラ文書の研究動向について意見交換するとともに、『ラ・ガリゴ』叙事詩のインドネシア語翻訳出版と進捗状況について情報を得た。 更に、マカッサルで開催された第1回インドネシアネシア華人文化フェスティバルに参加し、観察する機会をえた。現地の文化と中国文化の融合によってもたらされた「華人文化」を表出することは、スハルト期には封じ込められていたものの、2000年以降の民主化の中でその開放化が進み始めた。フェスティバルを通じ、華人文化が食文化のみならず、婚姻儀礼、芸能、文学においても現地文化との融合・共存の上に成り立っていることを確認した。華人文化の再評価は、たんに中国的要素を高揚することではなく、地域文化の復興運動の一環として存在することが理解された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記入した研究目的はほぼ達成されている。 (1)『ラ・ガリゴ』叙事詩に関する文書情報の収集。地方分権化が進む2001年以降に重点をおき、新聞記事、刊行物、県及び州政府の文化・観光政策、伝統行事に等に関する文書などを収集した。(2) 南スラウェシにおける現地の文化活動に積極的な若い世代の推進者(著述家、出版活動を行う者、研究者)、南スラウェシにおける文化団体、演劇集団などと接触し、聞き取り調査をおこなった。(3)海外研究協力者を通じ、『ラ・ガリゴ』叙事詩に関わる研究動向を把握し、刊行物を収集した。(4)華人文化への注目は、地方文化の創造というテーマに新しい観点を加えることになり、当初予期した以上の収獲があった。 (5)ただし、交付申請の中で言及した、南スラウェシにおけるイスラームのシャリア条例などについては、新聞記事など文書情報の収集は行ったものの、現地イスラーム知識人との接触、聞き取り調査は、実施を延期した。これは、海外研究協力者のアドバイスにより、事前情報の準備が必要と判断したためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)『ラ・ガリゴ』叙事詩に関する文書情報の収集については、継続的に実施する。なお、本年度には、10月にハンブルクで開催される国際ブックフェアに合わせて、ラ・ガリゴ叙事詩の第3巻が刊行される予定である。第2巻の刊行からすでに10年の間隔があり、その評価、影響についても注目し、聞き取り調査を行う。 (2)慣習文化、生活において、『ラ・ガリゴ』叙事詩との親近性が強い地域において、同叙事詩がどのように受け止められ、日常・非日常生活で用いられるかついて、予備的な聞き取り調査を行う。南スラウェシ州シドラップ県にはイスラーム教を信奉せず、『ラ・ガリゴ』叙事詩を聖典と仰ぐ、トロタン信仰の人々が存在する。同地域は、1970年代、伝統的なトロタン信仰がヒンドゥーの一派として認定されことで、たんなる「慣習の徒」からヒンドゥー教という国家認定の「公認宗教」の礼拝者となった経緯をもつが、近年調査が試みられていないので、有力な調査候補地と考えている。 (3)前年度予定していた現地のイスラーム知識人との聞き取り調査については、海外研究協力者の紹介により、イスラーム系の国立大学であるアラウッディン大学(IAIN)とコンタクトをとり、とくにアダット(慣習)とイスラームとの関連について聞き取り調査を実施する。 (4)華人文化の地域文化における位置に注目し、マカッサルにおける華人文化の推進者からも、継続的に聞き取り調査を行う。
|
Causes of Carryover |
(1)海外研究協力者の出張および聞き取り予定者との日程調整ため、予定した国外調査日数を十分にとれなかった。 (2)物品費、人件費、消耗品の購入を実施しなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、国外で開催される学会に出席し、コンタクトの取りにくい南スラウェシ研究者、『ラ・ガリゴ』研究者と意見交換する予定である。そのための出張旅費として次年度使用額を充当する計画である。
|
Research Products
(4 results)