2014 Fiscal Year Research-status Report
フランス終末期法と「死ぬ権利」――苦痛のない終末期QOLを目指す立法化へ
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26380157
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
大河原 良夫 福岡工業大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70341469)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 終末期法 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は総論的な俯瞰を行なうために、「死ぬ権利」論の近年の潮流の分析枠組を提示した。 フランスは、終末期医療として、延命はしない・患者とその痛みを放置しない・安楽死はしないの三原則を打ち立てた。その2005年終末期法で、これまで、そのデリケートな均衡状態を保ちつつも、その中で、形式的には延命治療・緩和治療・安楽死の法的枠組みは一応ありながら、それぞれ「安楽死」との境界域の曖昧さを実質的には残し払拭しきれないままに、「死ぬ権利」(積極的安楽死・自殺幇助)の主張が拡がっていた。最期は苦しまないで死をむかえたいという課題に応えるために、まずそれに対する消極的対応から始まった。 第一の潮流(①②)である延命(濃厚執拗)治療中止である。この潮流は、死ぬ権利論の原点とも言えるもので古典的部類に属そう。延命治療の禁止(①)は、医業倫理法典にその法的起源をもつ。これは、患者の要求による治療中止(②)とは一応別に、回復治癒の見込みのないときに医師が決定する治療中止であり、終末期患者に限らず治療の濃厚執拗の限界性が問われるものである。どの時点でその限界を越えるかは、現行終末期法制においては協議決定、家族・近親、事前指示の参照プロセスを経て決定されることになる。 第二の潮流(③④)として現れる二重効果的緩和治療の問題である。フランスにおける「死ぬ権利」論第二章である。この潮流は、死ぬ権利論として比較的新しい部類に属する。安楽死の原因は、患者を孤独にして見放すことと患者の病気による苦痛にあるとして、緩和治療の原理を患者を見捨てない・孤独にしないと苦痛をさせないに置き、そうした緩和医療を展開しようとするものであった。とりわけ、苦痛緩和については、どうしても患者の苦痛が緩和されない場合のセデーションが法的倫理的に問題となったからである(後続)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に推移しているが、終末期法制改革の進展に併せて、多少の前後があった。 (前承)今般の改革の肝は、権利としてのセデーションの導入である。現行終末期法の運用としては、その理念・規範とは別に、第一・二の潮流ともに、安楽死を恐れ安楽死と混同する医師が、延命治療を続け、死を早める二重効果的緩和治療も行わないというのが現実であった。しかしこれでは全く、最期は苦しまないで死を迎えたい・苦しまない終末期Q O L という課題に答えられない、かといって、安楽死という方法も使えない中で、セデーションが見直され、しかも、患者の権利として、「ターミナル・セデーションを受ける権利」を認めようとする方向に収斂されてくるのである。 こうした方向を打ち出すのが、議会の『レオネッティ・終末期法評価委員会報告』(AN Rapp n°1287, 2008)であり、『シカール・終末期委員会報告』 (Penser solidairement la fin de vie)及び今夏の『国家倫理諮問委員会意見』(CCNE, avis N°121)による二つの答申である。これら三答申、とりわけ後二者は、次の新法で、「フランス流の解決提案」として、ターミナル・セデーションを受ける権利を患者に認めるだけでなく、次の次の自殺幇助権まで見据えている点で、重要であった。これら三つの答申は、政府提出法案上程までの前哨線において中心的役割を果した。この仔細なフォロー・熟読が必要であり、先行させた次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、前年度の研究成果を承けて、現在行われている本戦である議会審議での議論展開及び第一の潮流たるLambert事件の分析に目を向ける作業を行う。 そしてさらに、後回した歴史的研究たる、第一潮流の濃厚執拗治療拒否の起源に遡って、その流れをくむ重要な《執拗治療acharmement therapeutique》概念の形成・展開を巡って蓄積された議論を読み解かねばならない。医学哲学・倫理学的そして法的な原点だからである。こうした議論の上に、まず医師の職業倫理となって医業倫理法典の上に結実し、さらにこれが患者の権利として終末期法に取り込まれるまでに、展開・発展することになるわけであるから、医業倫理法37 条の制定過程、終末期法の立法過程における議事録をも丹念に実証的にっておかねばならないからである。
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Causes of Carryover |
前年度は、物品費とくに図書資料としての書籍には新刊でみるべきものがなく、これを見送って来年の書籍新刊及び機械器具(PC等)に当てるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度の図書資料としての書籍・新刊(洋書/和書・雑誌等)および機械器具(パソコン等々)
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Research Products
(2 results)