2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380232
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大瀧 雅之 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60183761)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ケインズ理論 / ラムジーの確率論 / 国債管理政策 / 財政規律 / デフレーション・ディスインフレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はケインズの『一般理論』に関する英文の理論書一冊(近刊)と昨年度に開発した新しいケインズ理論をもとに現代日本経済の構造に関する実証分析についての英文の研究書一冊を、それぞれ上梓した(いずれも査読付)。 『一般理論』に関する書は、(i)従来の非自発的失業に関する解釈が誤りであり、ケインズはある一定の固定的名目賃金のもとで非自発的失業が発生すると考えたのではなく、古典派の第二公準をより広く解釈することで、任意の名目賃金のもとで非自発的失業が広範に存在しうることを証明した。(ii)乗数理論の嚆矢であるリチャード・カーンの「雇用乗数」と『一般理論』で展開される「投資乗数」が互いにいかなる関係にあるのかは、これまで詳らかではなかったが、この理論的関連に関する方程式の導出に成功し、両者が一致する条件を明らかにした。 後者の現代日本経済に関する実証分析は、昨年度に構築した理論に忠実に、現代日本経済の危機を、(i)財政規律の弛緩・国債累増による将来世代への不公正な負担転嫁、(ii)対外直接投資による国内経済空洞化に伴う景気停滞・失業率(特に若年世代)として捉え、財政・金融の緊縮および対外直接投資を国内投資に切り替えることで、国内の労働市場の活性化を図ることができ、それが景気の回復につながることを主張したものである。 さらに昨年度構築した理論をもとに、国債の負担に関する英文論文を査読付雑誌に刊行し、アッバ・ラーナーによる国債の理論には誤りがあり、国債の発行はケインズ経済学的にも、必ず将来世代の負担となることを厳密に証明した。さらにケインズの影響を強く受けたフランク・ラムジーの確率論をもとに、ケインズ経済学と貨幣数量説の妥当性を検討する英文論文を査読付雑誌に刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は,当初Springer社から,申請者が開発した新しいケインズ理論を,系統的に解説した理論書を刊行することにあった.この目標は昨年度達成され,研究は極めて順調に進捗しているといってよい. 本年度はこれに加えて,二つの新たな成果が上がった.ひとつはRoutledge社から,開発した理論をもとに,信頼できるデータを用いて,現代日本経済の解説書を上梓した(査読付き).したがって本研究は,理論・実証分析の両面から,開発したケインズ理論の妥当性を示すことができたと考えている. 今一つの成果は,開発した理論の発展に,次の二つの点で成功したことである.Springer社から刊行した``Keynesian Economics and Price Theory''では,現在世界のいたるところで問題となっている財政赤字・国債の累増問題を取り扱っていなかった.通常,ケインズ政策は積極的財政・金融政策を奨励するものとして解釈され,また実行されてきた.しかしながら,現状はそれに大きな疑問を投げかけている.本年度の研究では,(需要が供給を喚起するという意味で)同じケインズ経済学の立場から,開発した乗数理論にミクロ経済学的基礎があることを利用して,赤字国債の発行は,所得分配の変化のみならず,将来世代の経済厚生を必ず低下させることを証明した. さらに今一つの研究では,次の理論的問題を解決した.すなわち,貨幣経済固有の不確定性により,貨幣の価値に絶対的信頼を置くケインズ的均衡と物価が貨幣数量に正比例し貨幣には相対的な価値しかないと主張する貨幣数量説的な均衡が,合理的期待均衡として両立しうる.しかしフランク・ラムジーの確率論を援用した新しい研究では,ケインズ均衡がより自然なものであることを証明した. なお当該研究は申請時の予定をクリアーしており,当初予期していないことが起きる懸念は存在しない.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初の目的をほぼ達成した.本年度はケインズの原典である``The General Theory of Employment, Interest, and Money(以下『一般理論』)''の新解釈をSpringer Briefs in Economics: DBJ Research Seriesから上梓したい(査読付き).新解釈のキーポイントは以下の述べる通りである. ①「名目賃金の固定性は,ケインズ経済学にとって本質的なものではない」.従来の解釈では,労働者が非合理的にある特定の名目賃金に固執することが,失業を生む原因であった.したがって名目賃金の切り下げは総供給価格のスケジュールを右方へシフトさせ,有効需要を喚起する働きがあった.しかし本研究では,ケインズの言う「古典派の第二公準」をより広く解釈することにより,名目賃金の切り下げは,ケインズの原典が語るように,単に価格を比例的に下落させるだけで,景気回復策とはならないことを明らかにする.同時にこのような新しい解釈により,『一般理論』において,既に非自発的失業の存在が厳密に証明されていたことを明らかにする. ②乗数分析はカーンの「雇用乗数」に始まる.これは財政需要を受けた産業の雇用が,派生的にどれだけの総雇用を生み出すかという概念である.財政支出の一単位の増加が名目GDPをどれほど増加させるかという,ケインズの「投資乗数」とは別な概念である.本年度の研究では,両者がいかなる理論的関係にあり,それが一致する条件を求める. ③『一般理論』では経済のフローの側面を描く有効需要理論とストック面を担当する流動性選好理論のインターラクションが不分明である.特に貨幣は「価値保蔵手段」と「決済手段」を兼ねるために,『一般理論』のようにフローとストックを分離して考えるのは不適切である.そこで,両者間の相互作用を含む理論を構築する.
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Research Products
(9 results)