2015 Fiscal Year Research-status Report
繰り返しゲームモデルにおける観測構造の内生的決定と協調的均衡の行動面からの分析
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26380238
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
関口 格 京都大学, 経済研究所, 教授 (20314461)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 繰り返しゲーム / 不完全公的観測 / 不完全私的観測 / 多市場接触 / カルテル / 再帰的効用 / 観測オプション / フォーク定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
フォーク定理の成否や均衡利得の分析にやや過度に集中してきた繰り返しゲームの理論の流れとは一線を画した研究プログラムを提示し、繰り返しゲームの理論的研究を更に発展させるという本研究の目的に照らして、以下の4つの研究成果を得た。 1.再帰的効用を持つプレーヤーによる繰り返しゲームの分析、特にクールノー寡占への応用研究を昨年度に引き続き行った。最も結託的な均衡の特徴付け及び再帰的効用関数のパラメータとの依存関係について、伝統的な効用関数概念下での結果の理解をも大きく深化させる一連の成果を得た。 2.産業組織論で活発に議論されている、寡占企業が複数市場で同時に操業する(多市場接触)という事実それ自体がカルテル促進的かという問題について、各企業の行動が正確には観察できない不完全観測の状況の分析を行った。これは、各企業の行動が正確に観測できるケースに特化した前年度の研究を大幅に拡充するものである。不完全公的観測と不完全私的観測の両方について分析し、特に私的観測の場合について、多市場接触によるカルテル促進効果が強く現れる均衡の構築を、世界に先駆けて行った。 3.観測オプションのある繰り返しゲームモデルに関する研究代表者自身の過去の研究を更に発展させる研究を、昨年度に引き続き行った。昨年度から研究中の自動観測・オプション観測並存型モデルについて、(1)自動観測確率の大小と均衡利得集合の一般的関係、(2)教科書的な自動観測モデルとの本質的な違いをフォーク定理の成立条件の観点から示す、という各論点について、決定版的結果を導出した。 4.フォーク定理の前提条件を満たさない不完全公的観測の繰り返しゲームについて、フォーク定理は成立しないが協調可能命題は成立する(フォーク定理の「半失敗」)事象に着目し、半失敗が起きる条件の導出およびそのような場合の均衡分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
再帰的効用を持つプレーヤーによる繰り返しゲームでの最も協調的な均衡の特徴付けや、多市場接触がカルテルを促進することを具体的に示す均衡の構築など、繰り返しゲームの協調的均衡の行動面での含意の導出について、前年度に引き続き大きな成果を得ている。特に、クールノー寡占下の最適カルテルを再帰的効用関数のケースで分析した研究は、伝統的な効用関数下でよく知られている成果の見通しをもよくするもので、学術的意義は大きい。また、不完全私的観測下での多市場接触のモデル分析は前例がなく、しかもそのような環境で多市場接触効果が強く現れる均衡の存在条件を示したことは、インパクトが大きい。 更に本研究課題は、繰り返しゲームの理論的分析に新しい問題意識を付加することにも成功している。例えば自動観測・オプション観測並存モデルの分析では、自動観測確率の大小が均衡利得集合へ与える影響の分析という新しい視点を導入し、それだけでなく数学的に強い結果を導出した。フォーク定理の前提条件を満たさない不完全公的観測モデルにおいて、フォーク定理の半失敗現象を提示したのも、新しい視点の一つである。 このように本研究課題は、様々な角度から繰り返しゲームの理論的研究に貢献しているが、これは当初の計画を質量両面で上回るもので、ゆえに当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の開始以来2年間にわたり、重要な研究成果を積み上げることに成功しているが、その時々で重要と信じる問題に注力する研究体制を取っているため、交付申請書に記載した研究計画の内容との乖離が進んだ部分がある。例えば、初年度から取り組むとした「プレーヤーによる情報獲得活動を明示的に導入したモデルの分析」については、自動観測・オプション観測並存型モデルの分析にややその気配を残すものの、手つかずと評価されても仕方がない現状である。しかし繰り返しゲームモデルにおける情報獲得問題については、研究代表者自身の過去の研究も含めて活発に研究が行われていた時期に比べ、内外の研究がやや一段落した感もある。よって、現在順調に進行しているプロジェクトの手を止めてまで取り組むべきかについては、検討が必要だと考えられる。選択と集中を一つのキーワードとしながら、当初の研究計画との整合性をどこまで担保するかについては、今後も内外の研究状況を適宜見極めながら、柔軟に判断する。
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Causes of Carryover |
平成27年度は前年度の順調な研究の進展を受け、査読付き国際学会での研究報告を4件計画していたが、うち1件について不採択になってしまい、それがたまたま遠方・長期間の学会であったため、この1件だけで大きな未使用額を発生させてしまった。また採択された学会への出席に際しても、安価な航空券を手配できた・先方が当初見込んでいたよりも多くの宿泊数を負担してくれたなどの要因で、経費が削減された。主にこれらの事情から、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の引き続き順調な研究の進展を受け、来年度についても査読付き国際学会ての研究報告4件を計画している(うち1件は共著者が報告するが、研究代表者も当該学会に出席してディスカッションをする予定である)。このため、多額の助成金を必要とする予定である。引き続き、理論経済学関連図書・論文作成手伝いのための院生への謝金・学会や研究会出席のための国内旅費・作成論文の英文校閲などにも支出を計画している。
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