2015 Fiscal Year Research-status Report
最低賃金が雇用、失業、経済成長、経済厚生に与える影響
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26380343
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
山口 雅生 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (50511002)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 最低賃金 / マクロモデル / 雇用 / 賃金分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
安倍内閣は、賃金の引き上げや最低賃金の引き上げを唱えているが、学術的には最低賃金の引き上げが経済に与える影響は、議論が分かれている。そのため実証的研究の蓄積が重要となっている。 最近の実証的研究においては、最低賃金の上昇は必ずしも雇用を減らさないということが、いくつかの実証研究で示されている(Dube et al. 2010, Review of economics and statistics 92(4))。しかしその理論的なメカニズムは、monopsonyモデル、サーチモデル、効率賃金モデルによって理論モデルが構築されているだけである。研究者Yamaguchi(2013)のマクロモデルが説明するような最低賃金の引き上げが需要不足を解消するというメカニズムは、Allegretto Dube and Reich (2010, industrial relations 50(2))が実証的に生じているかもしれないと主張するように、重要な研究である。しかし2015年度に、Yamaguchi(2013, Osaka university of working paper)のマクロモデルが不決定になってしまう要素が存在することがわかり、今後のさらなる研究が必要であることが明確になった。 一方、「賃金構造基本統計調査」と「労働力調査」を用いた最低賃金引き上げの雇用や賃金分布などの影響についての実証的研究は、2015年度に少なからず進展したが研究結果をまとめるまでには至っていない。地域別最低賃金の引き上げが賃金分布の100分位値に与える影響を、Autor et al.(2016, American economic Journal 8(1))の研究に依拠しながら、最小二乗法と操作変数によって推計したが、最低賃金が賃金分布の下位だけでなく、上位の分位値にも影響するという非現実的な結果となっており、今後改善が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2013年に最低賃金を導入した、動学マクロモデルを構築したが、2015年度に課題がみつかり、未だにその解決ができていない。具体的には、Barro and Grossman(1971)による不均衡マクロモデルの設定を、貨幣のみをストックとする動学的一般均衡に拡張した際に、モデルが不決定となる点である。この問題の考察を続けていたが、時間ばかりが過ぎてしまい、すぐに解決できる見通しが立っていない。また最低賃金の上昇が賃金分布に与える影響について、「賃金構造基本統計調査」を用いて推計したが、賃金分布の上位にも影響を与えるという非現実的な結果となっており、推計モデルの定式化の変更が必要であると考察している。説明変数に都道府県別の異質的な経済ショックをコントロールする変数を追加する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はマクロモデルの研究を中止し、統計データを使った実証分析の研究に時間を集中させるように考えている。現在、最低賃金の引き上げが賃金分布、若年雇用、小売業や飲食産業の雇用、労働時間に及ぼす影響を分析するために準備を進めている。これらの研究が進展したならば、さらに最低賃金が経済に及ぼす影響をより細かく分析するために、「家計調査」「事業所統計調査」「経済センサス」「サービス産業動向調査」「商業動態統計調査(商業販売統計)」「コンビニエンスストア統計調査」「特定サービス産業調査」「小売物価統計調査」「個人企業経済調査」「消費者物価指数」「毎月勤労統計」「企業向けサービス価格指数」「雇用動向調査」「職業安定業務統計」「雇用保険事業月報・年報」「就業構造基本調査」のうちのいくつかの個票パネルデータの利用を、各省庁に申請する予定である。
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Causes of Carryover |
人件費の支出がほとんどなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
『最低賃金決定要覧』からの産業別の最低賃金のデータ入力と整備のために、人件費を支出する予定である。
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