2014 Fiscal Year Research-status Report
ソブリンCDSのプレミアムと整合するリスク フリー・レートの推定手法の開発
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26380404
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
神楽岡 優昌 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40328927)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リスクフリー・レート / 金利の期間構造 / クレジット・デフォルト・スワップ(CDS) / 国債 / 金利の正値性 |
Outline of Annual Research Achievements |
伝統的なファイナンス理論では国債から推定した金利をリスクフリー・レートとみなしている.ところが,ソブリンCDS(国債を参照体としたCDS)のプレミアムがゼロでないことは,国債にもクレジット・リスクが存在することを示唆している.この事実は国債の利回りが「真のリスクフリー・レート」とクレジット・スプレッドから構成されることを意味する. 2014年度は日本国債の利回りと日本を参照体とするソブリンCDSのプレミアムから,「真のリスクフリー・レート」とクレジット・スプレッドを同時に推定した.具体的には,日本国のデフォルト強度がPoisson過程に従うとする確率過程モデルを適用し,国債金利とCDSプレミアムのそれぞれについて,理論価格と市場価格の乖離が最小になるようにパラメタ‐の同時推定を行った.リスクフリー・レートは,対応する瞬間的フォワード・レートをモデル化し,それがステップ関数で表現するものと,3次のB-スプライン関数で表現するものの2通りについて適合性を検討した. 実証分析は2005年から2012年の月次データを対象に行った.その結果,瞬間的フォワード・レートについて,いずれの表現でもモデルは市場に適合可能だが,3次のB-スプライン関数を用いると国債金利の価格エラーが劇的に減少することがわかった.また,「真のリスクフリー・レート」が対応する瞬間的フォワード・レートは,ゼロ金利政策の期間だけでなく,ほとんどの期間において,短中期の満期にわたってマイナスの値をとっていることが判明した. リスクフリー・レートがマイナスの値をとることは,標準的なファイナンス理論とは整合せず,以下のように,その理論の変革を必要とする.第1に,リスクフリー・レートは純粋に理論的なものであり,それ自体は取引可能ではない.第2に,取引可能な金利の正値性が必要条件あり,それを満足すると無裁定条件も充足し,理論的・実証的にも矛盾は生じない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2014年4月までにCDS評価モデルおよびソブリン・リスクの評価や実証研究の既存研究のサーベイをおこなった.その結果,CDSプレミアムへの時系列モデルの適用などの実証分析は数多くあるが,リスクフリー・レートとの関連性についての既存研究は皆無で,本研究のオリジナリティを再確認できた.2014年5月に日本国債と日本を対象にしたソブリンCDSの月次データベースの構築を行った.その月次データベースを対象に,真のリスクフリー・レートとクレジット・スプレッドの同時推定に成功した. 暫定的な研究成果を2014年6月の国際学会(査読有)で発表したところ,フロアからの反応はポジティブであった.すなわち,モデルの新規性だけでなく,その論理的妥当性および実データとの適合性について,フロアの参加者の共通の理解が得られた.さらに,分析を精緻化して英文論文にまとめ上げ,ジャーナル(査読有)に投稿したところ,エディターから,改善点の指摘を受けることなく,掲載決定の判断が即座に下されたことから,研究目的を達していると評価する. その後,2014年11月から日本国債と日本を対象にしたソブリンCDSのデータベースの頻度を月次から日次に細分化し,パラメタ‐の同時推定を行っている.真のリスクフリー・レートの表現については,ステップ関数と3次のB-Spline関数の2つを検討しており,分析結果の頑強性・安定性を確認している. 2015年1月からは,金融政策との関連性を解明するために,国債金利だけでなく,国債と政府保証債の金利スプレッド,金融政策に関連する指標(日本銀行の国債の債券別買入れ額,日銀の当座預金残高,マネタリーベース)の統計分析を行っている.金融政策と金利のクロスセクションおよび時系列の統計結果は,通常の統計モデルの適用性を否定しており,異なったアプローチが必要と考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は日本国以外のヨーロッパの国債とソブリンCDSに拡張して,真のリスクフリー・レートとクレジット・スプレッドの推定を行う.ヨーロッパ諸国のソブリンCDSは,その対象とする通貨(ユーロと米ドル)によってCDSのプレミアムが多く異なっており,その差異を説明するモデル化が必要である.本研究では,その差異がカウンターパーティ・リスクに起因すると仮定して,そのモデル化を行う. 次に,具体的にモデルを説明する.対象通貨がユーロの場合は取引参加者はヨーロッパの金融機関と考えられる.従って,CDSの参照体およびCDSの取引参加者は共にユーロ通貨に関するリスクを被る.一方,対象通貨が米ドルの場合は取引参加者は米国の金融機関と考えられる.従って,CDSの参照体はユーロ通貨に関するリスクを被るのに対し,CDSの取引参加者はユーロ通貨に関するリスクを被らない.すなわち,通貨がユーロの場合は,カウンターパーティ・リスクを反映しているのに対し,通貨が米ドルの場合は,カウンターパーティ・リスクを免れていると考えられる. 2015年4月~7月は,既存研究のサーベイを行い,2015年8月~11月でデータベースの構築,2015年12月~2016年3月で実証分析を行う予定である. 研究協力者のZakaria Moussaは,ヨーロッパ各国の債券市場およびCDS市場に関して,レビューをする.さらに,統計モデルや時系列モデルについて,適用可能性を共に協力して開発する. ヨーロッパ各国の債券データはThomson Reuters Eikonから入手する計画であったが,本データベースが現在市場で取引されている債券だけを対象に価格データしか収録していないことが判明した.そこで,現在,債券属性と2005年以降の債券価格のヒストリカル・データを収録した,購入可能なデータベースを検討中である.
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Causes of Carryover |
ヨーロッパ各国の債券価格データベースの構築のためのデータサーバ(15.3万)の購入を2015年度以降に先送りしたためである.これは,当初,既契約のThomson Reuters Eikonからの債券データ価格のダウンロードを予定したが,そのデータが限定的にしか入手ができないための措置である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と2015年度分の助成金を合わせて,ヨーロッパ各国の債券属性,債券価格のヒストリカル・データ(日次あるいは月次)を収録したデータベースの購入を最優先とする.
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Research Products
(2 results)