2016 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリス労働市場における国外出身労働者への継続的な依存と移民第二世代の成長
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26380433
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
奥田 伸子 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (00192675)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 外国人労働者 / 現代イギリス労働市場 / 日英比較 / アイリッシュ・ディアスポラ / 経路依存性 / バッファー仮説 / EU(EC) |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度は、以下の2つの方向で研究を行った。 第1は、従来看過されがちであった1970年代イギリスにおける外国人労働者政策についての論文を執筆・発表した。イギリスにおいて外国人労働者問題は現在、喫緊の課題である。そのため現在の外国人労働者に関する研究は多く発表されているものの、歴史的経緯、特に新英連邦からの移民がより重要な課題と認識されていた1970年代以前については、新英連邦出身者以外からの移民、労働力導入にかんする研究がない。 論文は、1973年以前は新英連邦出身以外の労働者、73年以降はEC加盟国以外の労働者にたいして発行された労働許可証の発行について、政策および発行実態を第1次資料から分析し、1960年代後半以降の不況期においても労働許可書は発行され続けたことを示した。その結果、外国人労働者が労働市場における需給調節として雇用されるというバッファー仮説は成立しないことを示した。一方、21世紀に関する研究で指摘されている経路依存性については、この時期にすでに確認できることを示した。これによって戦後イギリス労働市場における外国人労働者政策は資料が利用可能である時期の大半をカヴァーした。一方、第2世代については29年度に持ち越した。 28年度は、29年度に予定しているイギリスからの研究者招聘に向けての準備も行った。29年度秋(10月末~11月上旬を予定)に予定している招聘時の研究集会のテーマは招聘研究者の専門を生かし、イギリス労働市場において重要な役割を果たしたアイルランドから移民とその第2世代、および女性移民を中心とする予定である。これらについては招聘予定研究者の研究を含めた当該分野の研究を紹介する研究史紹介論文を執筆中であり、招聘時には日本におけるアイルランド移民研究の全体像を研究集会等で報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」とした理由は、本年度の目標であった論文を発表することができ、招聘に向けての準備が順調に進んでいること、招聘時の研究集会等のテーマがほぼ確定し、研究集会への準備作業(論文執筆等)が進み、研究集会で重要な役割を果たす報告とともに、論文として来年度中には発表できる見通しである。以上から、当初の予定どおりに研究成果を出すことができたと考えた。 他方、27年度に引き続き、イギリスでの資料調査を行うことができず、この間の公文書の公開による新しい資料の発見等を行うことができなかった。この点については、29年度に集中的に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は本研究課題の最終年度である。29年度はイギリスからの研究者の招聘の際の研究集会をとおして招聘研究者および国内研究者との交流の促進をはかるとともに、本研究課題について多方面からの検討を行うことを第1の課題として行う。具体的には、東京および名古屋で研究集会を開催し、これまでの研究成果の報告を行う。その後、招聘研究者,本課題の研究代表者の報告およびコメント、議論をまとめ、公表することを予定している。 研究課題全体の成果についてはすでにまとめに入っており、30年度に著書として完成させる。29年度はその準備を行う さらに招聘研究者の問題関心を生かし。、日英比較(在日韓国・朝鮮人とイギリスにおけるアイルランド移民とその子孫の社会経済史的位置づけにかんする比較)への発展を探ることも本年度の目標である。これは、本研究課題からの発展であるがやや挑戦的な課題である。こうした研究課題を明示的に設定することによって、新たな国際比較研究の一分野を開拓することが可能であると考える。これについては今後の科学研究費の申請等ををとおして実現させていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。第1は、29年度に予定しているイギリスからの研究者の招聘とそれにともなう研究集会の開催(コメンテーターの旅費と東京開催の研究集会については研究代表者の旅費)、および研究集会後の成果報告書の作成費の費用を確保するためであり。これは研究課題の初年度から計画的に行ってきたものである。 第2は、昨年に引き続き家庭の事情で計画していた海外出張を取りやめざるをえなくったことによる。このときに予定していた資料収集等は29年度夏に行う。また出張時に計画していた招聘研究者との打ち合わせはメールによって行ったために大きな支障が出ていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度の使用計画は以下のとおりである。 海外からの研究者招聘のために、約60万円(内訳は、概算であるが航空運賃30万円+宿泊費17万円+国内旅費7万+謝金6万とした)を計上する。招聘時の研究会の開催として20万円(コメンテーターの旅費8万、研究集会および打ち合わせなどにかかる研究代表者の旅費12万円)、成果報告報告書作成のために10万円をそれぞれ計上する、以上で28年度末の次年度使用額とほぼ同額になる。本年度の研究として、夏のイギリス資料収集のための旅費に約40万円とし、残額を図書購入費、および国内における資料収集のために利用する。
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