2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380459
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
白肌 邦生 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 准教授 (60550225)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 価値共創 / 持続可能性 / 環境教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究目的は,自然資源を活用した持続可能なサービス価値共創モデルを構築し,それを実践可能な形に展開していくことにある.「自然」と「サービス提供者としての人間」と「サービス受容者としての人間」の3者間価値共創を,持続可能性のためのサービスのモジュラー構造として定義し,(i)どのように資源が統合されその構造が生成され,(ii)その構造が頑強であるためには何が重要か,という観点から理論形成を行ってきた.また実践の観点から,自然資源がもたらす便益を人間が明確に認識し,価値を享受することを目指すサービス設計論の研究を行ってきた. 理論形成においては,平成27年度中盤までに実施してきた里山の参与観察をもとに,サービスシステムのレジリエンス研究として国際会議報告をしたり,里山事例だけでなく金沢の花街文化継承の試みと対応させたりしながら,国内会議報告を実施してきた. これに加え,平成27年度は2つの観点から実践を意識した研究をした.第1は地域農産品のブランド化である.県内特産の「加賀丸いも」の地理的表示登録に向けて関係者と共に,当該産品が地域との長年のかかわりの中でどのように愛され育まれてきたかを考えてきた.この中で,生産者,自然資源,そして顧客という三者間のかかわりを見出し,暗黙的土着の知を形式化していく作業に関与してきた. 第2は環境教育の視点を取り入れ,広義の顧客教育ならびにサービスの提供・受容主体の相互作用の質改善を検討した.この中で,多世代で自然資源の保持による価値(Value in Keep)醸成の必要性を見出した.更に,その担い手を地域シニアにすることで,定年後のセカンドキャリアも含めた活力ある高齢社会の指針になりうるという着想も見出した.環境教育の立場から小松市との連携を加速し,平成28年度に子供と高齢者が多世代の価値共創ができるための場作りをデザインすることが決定している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の平成27年度の課題には,基礎となるサービスデザイン手法について,より積極的に自然資源も加えていくための表現法に関してのものがあった.サービス提供者と受容者が自然資源を考慮に入れ,サービス価値の共創を通じて環境負荷の低減および自然生態系からの便益をより多く享受できるサービスプロセス設計技法を試作することを主に計画していた.これに関して,小松市と協働で,子供向けの環境教育に関する平成28年度向けのプログラム作りを平成27年度末におおむね終了させたことで,最終年度で実践するための基盤はできているといえる.環境教育という名称ではあるが,どのようにして関与者を自然資源に関心付けるかを計画する際にサービスデザインの知見を応用している. また,本年度(平成27年度)までに,里山から持続可能なサービスモデル生成のメカニズムを抽出した結果として,サービスエートスの醸成が重要であることを見出している.ここでエートスとは,活動を伴う暗黙知として定義している.自然との価値共創に関して,先祖からの教え,であるとか,市民のプライドであるとか,個別の説明はできるものの,なぜ自然を継続的に関心対象として持っているか,なぜそれが世代に引き継がれていったのかについてはより表現しにくい暗黙知の要素がある.これらを共有するための相互作用に関するデザインについても継続的に研究していく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の目標は,三者間価値共創モデルの総合的妥当性評価である.このためには,改めて,持続可能性のためのサービスモジュラー構造は何であり,どのように構成されていくのかを説明しなければならない.これに関して,本プロジェクトでは平成27年度の後期から,アクターネットワーク理論を用いて,なぜサービスモジュール構造が形成されたのかに関するより説得力のある説明方法の可能性を検討している.アクターネットワークは非生物的要素もある種のアクターとみなしてその相互作用を説明することを許容する概念枠組みである.この枠組みを用いつつ,これまで,重要要素として検討してきたサービスエートスが,どのように構築・普及していったのかを,事例比較することで明確にしていきたい. また,実践に関しては平成27年度後半に整備を進めてきた小松市との共同による教育プログラムの効果分析に注力する.これは教育の名がついているものの,三者間価値共創のフレームを活かした場作りおよび体験作りである.この体験を通じた満足度や,保護者の支払い意欲にどのような影響を与えうるのかを考察する.このとき,仮想的なサービスに対する近年のプライシング技法を応用することを目指す. こうした取り組みからこれまでのように,国内・国際学会報告をし,関係研究者との議論を充実させて,国際ジャーナルでの論文投稿につなげていく予定である.
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Causes of Carryover |
当初平成27年度に行う計画だった研究打ち合わせが,平成28年度に延期になったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に予定していた海外での研究打ち合わせに加え,国際会議に2回参加するための旅費として使用する.
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Research Products
(6 results)