2014 Fiscal Year Research-status Report
老舗企業における事業コンテクストの置換とそのプロセスに関する研究
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26380464
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
奥居 正樹 広島大学, 社会(科)学研究科, 准教授 (20363260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 事業コンテクスト / 老舗 / 事業継承 / 事業ドメイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,市場構造の変化に立ち後れた老舗の製造企業が自社技術を従前とは異なる事業領域へ転換することによって再び成長を遂げる事例に焦点をあてながら、技術に対する事業コンテクストの置換という観点からその成長要因とメカニズムを解明することを目指している。この目的の下、平成26年度は「老舗企業の事業継承と成長パターンの把握」を研究課題として、文献調査ならびにインタビュー調査によって研究を進めている。 これまでの研究から以下の2点が明らかとなった。第1に、老舗製造企業においてこれまで継承してきた技術を他分野に置換する事例は極端に少ないことである。伝統産業といえども市場成熟化や過疎化によって市場規模が縮小し、販売力の弱い企業から廃業などを余儀なくされる。この局面での成長イネーブラーは、外部環境に適応しながら老舗として培ってきた技術の活かすことにある。そこで老舗企業の多くは「伝統は革新の連続」を標榜した伝統技術に裏打ちされた製品強化に取り組むのだが、それらは既存の事業ドメインを継承したうえでの取り組みが前提となる。外部環境への適応という点では、事業コンテクストの領域そのものからの離脱や新領域への置換も考えられるが、そうした取り組みは「元気なモノ作り中小企業300社」からのスクリーニング調査でも4社程度にとどまり、あまり手がけられていないことが明らかとなった。第2に、事業コンテクストの置換に成功した数少ない企業に共通するのは、家業として継承した後継者が事業継承時から時間をおくことなく既存事業の衰退に見切りをつけ、自ら技術開発を先導して新事業を創業していったことにあることが確認された。 以上のことは、日本古来の伝統芸道における「わざ」の継承に見られる「守破離」を通じた技術や型の向上と類似性が見られる。反面、芸道の世界(領域)そのものに対しては批判することなく継承されやすいことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に実施した酒造企業へのインタビュー調査および2006年から2009年までに実施された中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業300社」から抽出した事業コンテクストを置換した企業へのインタビュー調査により、事業コンテクストを置換した成長のパターンについて概ね把握できた。今後はこの知見を生かしつつ、欧州企業との事業継承に関する比較や事業コンテクストの置換事例を調査する予定であり、概ね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究課題は、老舗企業における多角化と事業コンテクストとの関係性の把握と欧州の老舗企業における事業継承との対比である。前者は酒造企業を中心に事業多角化と事業コンテクストとの関係性について、インタビュー調査を中心に調査を深める。これにより、「第二創業」や多角化に挑む老舗企業の特徴を抽出する。後者は欧州の老舗企業における事業継承と事業コンテクストの変遷に関する事例調査を行う。これにより、「事業を創る」という観点から日本と欧州企業の共通点及び差違点を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初は事業コンテクストの置換に関する定量的調査を実施する計画であったが、酒造企業へのインタビュー調査や2006年から2009年まで中小企業庁が実施した「元気なモノ作り中小企業300社」計1200社を対象としたスクリーニング調査から対象企業が想定以上に少ないことが判明したため定量的調査を中止した。今後は事業コンテクストを置換した企業へのインタビュー調査を中心に研究を推進することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
置換企業へのインタビュー調査を行うため、繰り越し分は主に調査旅費として使用する。 具体的には、欧州企業の企業文化や事業コンテクスト、事業継承に関する書籍を購入するため設備備品として90千円、国内老舗企業ならびに欧州老舗企業へのヒアリングのための旅費ならびに学会報告のための旅費として529千円、事務消耗品として30千円、資料整理のためのRA費用として15千円、文献複写代や郵送料などとして15千円を使用する予定である。
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