2016 Fiscal Year Research-status Report
老舗企業における事業コンテクストの置換とそのプロセスに関する研究
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26380464
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
奥居 正樹 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (20363260)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 事業コンテクスト / 業態転換 / 置換 / 技術の価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、市場構造の変化への対応に立ち後れた老舗企業が自社技術を従前とは異なる事業領域へ転換することによって再び成長を遂げるための要因とそれが機能するメカニズムについて、自社技術に対する解釈変化とそれに伴う事業コンテクストの置換という観点から解明することを目指している。平成28年度は「機械加工技術を持つ企業における事業コンテクストの変遷に関する調査」と「事業コンテクストの置換を誘発する要因の解明」を研究課題とする。ただし前者は事業不振に伴う業態転換をドラスティックに実施するフィンランド企業を調査対象とした。 現地企業への調査で明らかになったことは、これまでの経緯など経時的な文脈よりも、現時点で選択可能なオプションは何でどれが最善かという観点から事業の再定義を行うことを優先させることであった。技術者は、携わる技術が顧客や社会に貢献すると判断すれば、新たに会社を立ち上げてでもその技術の発展を目指す。しかし最善でなければ、これに固執することなく技術や事業領域を乗り換える。このきわめて柔軟な考え方が事業領域の転換・置換だけでなく起業を促進する要因となる。 事業コンテクストの置換を誘発する要因としてこれまでの研究から明らかになったのは、企業が業界の規範に染まることを事業継続の危機として捉え、その危機を察知した際には顧客起点に立ち戻り、新たな文脈の下で技術の価値を見いだすことにある。事業コンテクストの置換に成功する企業に共通するのは、これまでの業界規範や常識の中で見落としていた副次的効果に着目し、その効果を最大化させる技術開発に着手することであった。既存技術がもたらす大小様々な効果をつぶさに拾い上げ、それが顧客にとって意味する価値を新しい文脈で紡ぎ出すこと、すなわち既存の事業コンテクストから脱コンテクスト化し、新しい文脈で再コンテクスト化できる糸口を導出することが誘発要因に挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コンテクストに関する研究として、語用論や認知科学に関する文献調査をさらに進めたことにより、言語表現の意味を援用した技術の価値解釈モデルのブラッシュアップが進んだ。また、日本とは対照的な事例調査としてフィンランド企業へのインタビュー調査が進められたことにより、事業コンテクストの捉え方とその違いがおおむね把握できた。今後はこの知見を生かしつつ、理論モデルの精緻化を図る予定である。このことから、おおむね順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は事業コンテクストの置換に対する理論モデルの精緻化を図ることによってこれまでの調査のとりまとめを進める。検討した理論モデルを調査企業に公開し、経営者と技術者の観点から修正を加えることで実践的な補強を行う。
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