2016 Fiscal Year Research-status Report
国際分業行動移行期における国際経営管理の実証的研究
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26380513
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
森本 博行 首都大学東京, 社会科学研究科, 客員教授 (90404954)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際分業行動 / フラグメンテーション / 珠江デルタ / 複写機・プリンタ企業 / 生産体制 / ASEAN経済共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)問題意識 当該年度におきましては、中国珠江デルタの複写機・プリンタ企業のフラグメンテーション(生産プロセスの分散化)を事例にして国際分業行動移行期の日本企業の生産体制の変化について検討した。日本の複写機・プリンタ企業は、珠江デルタの部品の製造から組み立てに至る一貫生産を可能にする産業集積を形成してきたが、近年、ベトナムやフィリピンに生産拠点を新設したのは何故か。生産プロセスの分散化は、資本集約的プロセスと労働集約的プロセスに分解でき、かつ分散化に関わるコストを吸収できる場合に行われるが、産業集積地からの生産の分散化は非効率のはずである、というのが問題意識である。 フラグメンテーションの先行事例には、メキシコのマキラドーラを活用した、自動車やテレビ機器の生産がある。先行事例を分析すると、マキラドーラは、米国へのメキシコ人労働者の排除を目的とした米国政府の行ったメキシコで生産された部品や完成品の輸入関税を免除、メキシコ政府の海外からの部品の輸入関税の免除等、経済政策の変更、日本製品に対する米国企業のコスト競争力の確保の戦略転換という、「三者の思惑」でフラグメンテーションが行われ、珠江デルタの複写機・プリンタ企業についても同様なことが言えるのではないか、という仮説が抽出された。 (2)検討結果 世界市場は、米国および韓国企業が低価格製品を販売することによって、日本企業はシェア的に劣勢にあり、付加価値の高い高速機に重点を移そうとしており、新たな設備投資の必要があった。中国政府は、従来の外資政策や労働政策を改めて、国内企業と同様な課税や労働者保護を行い、日本企業はコスト高を余技なくされていた。一方、ASEAN経済共同体の発足に伴って、ベトナム等は経済特区を設置し、長期的な優遇策によって外資企業の誘致を積極的に行うようになった。「三者の思惑」がフラグメンテーションを促進する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
従来、日本企業の国際分業行動は、オフショアリングとして垂直統合の生産プロセスを海外に移転することでコスト優位をはかる目的や、進出国市場での販売を目的として行われきた。しかし、今日、テレビやPCなどの生産プロセスの平準化に伴って韓国や中国などの新興国企業がコスト優位となり、海外の生産拠点を撤退させ、生産受託企業にアウトソーシングするようになり、国際経営管理の業態も著しく変化してきた。 本研究は、国際分業行動移行期における国際経営管理の業態を実証的に把握することを目的としているが、進出国の産業政策の変更や地域経済圏の協定見直し等についての調査分析、海外現地での企業担当者に対する聞き取り調査等の実地調査が必要である。海外現地での企業担当者の聞き取り調査は、事前の交渉が必要であり、大学院での講義の合間で行うために、限られた時にしか実地調査を行うことができずにいる。 本研究では、これまでデジタルカメラ産業、複写機・プリンタ産業等を限られた産業を事例にして着実に研究成果を出してきた。研究成果は、国際ビジネス研究学会等で報告しているが、報告のための分析等について綿密に行うために想定以上の時間を要してしまった。本来は、国際分業行動の変化について広範囲にその実態を把握しなければならいはずであった。その意味で、研究の進捗がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、従来、アジア地域での日本企業の国際分業行動の新たな業態への移行とそれに伴う国際経営管理の変化に着目して調査研究を進めてきた。 近年、グローバルな事業環境は、韓国、中国等の新興国企業の台頭に加えて、地域経済圏であった北米自由貿易協定(NAFTA)はトランプ政権誕生に伴って、メキシコを労働集約的プロセスの生産拠点として活用してきたが、生産体制を見直しを迫られている。また、英国のEU単一市場や関税同盟からの離脱(ハードデジット)は、英国を欧州に対する地域本社機能やリペアパーツを常備するサービスセンターとしてきた日本企業にとって、対EU貿易に対する関税賦課、輸出手続きの複雑化など想定され、国際経営管理体制やロジスティクスの変更が必要になっている。 本研究では、昨年度以来進めてきた複写機・プリンター企業のフラグメンテーション(生産の分散化)に加えて、先進国地域における自動車産業の国際経営管理の変化について研究を進めることを本年度は特に目標とする。
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Causes of Carryover |
本研究は、国際分業行動移行期における国際経営管理の実証的研究を目的にしており、進出国における産業政策の研究に加えて、進出国での日本企業の国際経営管理の実態に関する聞き取り調査等の実地調査が不可欠です。 次年度使用額が生じた主な理由は、海外実地調査費用として旅費を計上していましたが、計画通りの海外での実地調査ができなかったことによります。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度におきましては、北米自由貿易協定や英国のEU単一市場からの離脱、ASEAN経済共同体の発足等、地域経済圏の動向に注目し、日本企業の国際経営管理の変化の実態について積極的に実地調査を行います。 そのための旅費(45万円)および必要な研究資料の購入(10万円)、その他、学会参加費のため費用等を予算計上致します。
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