2014 Fiscal Year Research-status Report
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26380667
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
稲葉 奈々子 茨城大学, 人文学部, 准教授 (40302335)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会的排除 / 社会運動 / 貧困 / 福祉国家 / フレーム / フランス / ホームレス / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の社会的排除は、日本では研究および支援活動においても、個人が経験する困難に注目され、政策も自治体の自立支援は個人の社会統合能力を高める研修に重きがおかれてきた。他方、社会的排除の問題はフランスでは1990年代から注目されてきたが、研究・支援活動において、個人的な水準よりは社会政策の問題、さらには新自由主義といった政策イデオロギーとの関係で論じられることが多い。以上の知見を、文献および日本とフランスにおける社会調査によって明らかにした。社会調査は、2014年度はおもに日本とフランスで社会的排除に抗する社会運動の担い手に対するインタビューを行った。成果は学会報告および論文として発表した。 具体的には、日本の場合、個人の困難に焦点が当てられるがゆえに、孤立や孤独の問題として解釈され、活動も「居場所づくり」など個人の自尊心の回復を中心としたものになる傾向がある。実際に社会的排除を経験する個人は、自己否定感情を持つことが多かった。日本ではこのように個人の尊厳の問題が前面にだされるが、フランスの場合、同じ問題は存在するとはいえ、後景に退いている。両者の相違は、本研究の中心である社会的権利のうち住宅への権利の社会的位置づけによるところが大きい。住宅が社会保障の一貫として考えられているフランスひいては西ヨーロッパでは、住宅を社会政策として政府が保障することは、すべての人の権利として、ミドルクラスも含めて支持されやすい。対する日本では、住宅供給あるいは住宅手当は基本的に企業福祉であり、企業規模や雇用形態に左右されやすい。充実した企業福祉としての住宅を享受できるのは正規雇用で規模の大きい企業に就職することが必要であるが、それは個人の能力の結果とされる。公的な住宅手当は生活保護の一部であり、貧困層のみを対象とするものであるがゆえに、それを要求する運動はミドルクラスの支持を得ることが難しい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定どおり、日本とフランスでのインタビュー調査が進行しており、成果の報告も行った。インタビュー件数は予定どおりだが、内訳は住宅への権利運動の現場の担い手や社会的排除を経験する当事者の件数が多い。予定していたよりも社会的権利にかかわる政策を策定するアクターである議員に対するインタビュー件数が少なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
社会的権利の構築について、さらに実証的水準を高めるためにインタビューの件数を増やす。特に政策の策定にかかわったアクターに対する調査を集中的に行うことで、権利に関する言説の構築と社会的排除を経験する個人が、それをどのように認知して運動に参加するのか、両者の相互作用を明らかにする。
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Research Products
(5 results)