2016 Fiscal Year Research-status Report
日本西洋料理の発展経路とレストランワーカーの労働史
Project/Area Number |
26380700
|
Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
澤口 恵一 大正大学, 心理社会学部, 教授 (50338597)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 移民 / ゲストワーカー / レストラン産業 / サービス業 / 職業キャリア / 労働 / フランス / スペイン |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画にもとづき、平成28年度の研究上の課題は、これまで対象としていなかったスペインをフィールドとした聞き取りを実施することであった。10月にはバスク地方サンセバスチャンに滞在し現地に長期滞在する日本人に聞き取りを行うことができた。また2月にはサンセバスチャンに再訪し日本人も在籍したことのある2つの料理学校に視察と聞き取りを行い、マドリード、オビエド、バルセロナを訪問し現地のレストラン産業の視察を行うことができた。その結果次のような知見を得ることができた。日本人のレストランワーカーが多く滞在するのは美食の地として知られるバスク地方が多い。料理人がほとんどでありサービス担当者の就労は確認されない。長期就労者は滞在資格の取得が困難であることや、調理技術の習得の必要上、フランスやイタリアのようには多くはない。バスク地方で現在就労している料理人に限定すると数人程度にとどまる。スペインのレストラン産業を観察をすると、移民労働力への依存度は高くはなく(とりわけバスク地方)、移民労働力として期待されるのはスペイン語を理解する中南米からの労働者たちである。日本人の就労者を継続的に雇用してきたレストランはごく一部の店舗に限られる。なおサンセバスチャンの料理学校には日本人が20人程度在籍していたが、多くは帰国しごくわずかながら現地で開業している者がいる。近年日本人の就業者はスペインではピーク時(2000年~2010年)にくらべて減少しており、滞在期間が短く地理的分布も拡散しているために、日本人コックによるネットワークはフランスやイタリアに比べて明らかに希薄である。 当該年度の第2の課題はパリをフィールドとした調査を継続し、国内では1960年代・70年代に滞在したオーナーシェフ層に聞き取りを実施することであった。その成果として単著論文を一章執筆し共著形式の学術書を刊行することがきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおりにフランスでの聞き取りが順調に進んでおり、これまで予定していた調査地(パリ、リヨン、ニース)で当初の予定していた以上の対象者について聞き取りを実施することができた。またフランスにおける調査の結果をもとに論文を執筆し、当初の計画よりも早い段階で出版物として発表をすることができた。ただしパリを中心に現地における日本人料理人の新規出店は加速度的に進んでいる。研究計画の執筆時には予想もされなかった状況が生じており、ひきつづき現地の視察や聞き取りを行い最新動向を把握する必要がある。 スペインにおいてもバスク地方を中心的なフィールドとしたことにより効率的な聞き取り調査や視察を行うことができている。とりわけ平成28年度はスペインを代表する2つの料理学校を視察することができ、今後の研究のために重要な知識を得ることができた。 やや当初の研究計画と比較して遅延している点は、スペインについては予定していた視察先を訪問できていないこと、現地の長期滞在者からの聞き取りが対象者の都合により十分にできていないことによる。前者は予算とスケジュールの制約からくるものであり、後者はもともと対象者がごくわずかでありスケジュールの調整がしにくいといった問題によるものである。スペインと日本との交流は長きにわたる歴史をもつが現地に長期就労をする料理人は稀である。その件については当初から予想されたことではあるが、現地でのインタビューは予想以上に少人数にとどまっている。次年度はこれらの問題点については、国内でのインタビューを実施することにより対処していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度にあたる平成29年度には、ひきつづきフランス料理の発展経路に関するリサーチを続ける必要がある。1回のパリを中心としたフランスでの聞き取りと視察、そして国内の古参オーナーシェフへのインタビューを継続していく予定である。データの収集はこれまで予定どおりに順調に進んでおり、すでに刊行された成果も発表済みであるため、今後はさらに詳細な記述を行った研究論文の執筆を進めていく。 一方でスペイン現地でのフィールド調査を実施する必要性は想定以上に乏しいことが明らかとなったので、今年度はスペイン料理の発展経路については日本国内で活躍するキーパーソンからの聞き取りを実施する予定である。スペイン料理については長期滞在者が少なく得られる情報が限られることから、スペイン全体を対象とした成果報告を行うよりも、まずバスク地方を限定的なフィールドとした論文を執筆することが研究計画の円滑な遂行と成果の精緻さを考慮すると望ましいと考える。 以上の成果をふまえ、収集されたデータの総合的な分析を行うことが必要である。当初の計画どおり、イタリア、フランスそしてスペイン各国料理の発展経路を、日本人レストランワーカーの労働市場、ネットワーク、国際移動、そして受入国の移民労働者に関する需要と政策、現地レストラン経営者・シェフ層の戦略といった側面から分析することが可能である。 さらに近年、食の社会学やレストラン産業における労働を対象とした研究成果が海外の社会学者から数多く発表されている。これらの成果と本研究を呼応させつつ、伝統的な産業社会学や労働社会学、移民の社会学の系譜につながる成果を報告できるように着実に研究を進めていく予定である。
|